韓国には「tumblbug」というクラウドファンディングプラットフォームがあり、韓国インディーゲームのクラウドファンディングは、ここにほぼ集まっていると言ってよい。
tumblbugで日本産ゲームのプロジェクトが公開されたことは今までなかったが、百合アドベンチャーゲーム『早咲きのくろゆり』の開発元1000-REKA(Twitter)が、韓国の有志からの提案をきっかけにクラウドファンディング(専用ページ)を行なうことになった。
この度韓国の有志の方から「早咲きのくろゆり」韓国版を出したいとのありがたい申し出がありました!
— 1000-REKA Game(河田) (@1000rekagame) April 23, 2023
そこでローカライズ費用算出のために韓国でクラウドファンディングを行う事となりました。
一か国でも多く出したい目標はあったので、応援をお願いした次第です…!
2023年4月25日、プロジェクト公開から30分ほどで目標金額の500万ウォン(約50万円)を集め、韓国語版の制作が決定。7時間後にはその3倍の金額を突破し、なお後援金は増え続けている。百合ゲームファンの熱意にあらためて驚かされた。
韓国進出の新たな可能性
前例が出来たことで、後に続くタイトルが出てくるかもしれない。
韓国語に対応して、より多くのユーザーにゲームをプレイしてほしい開発者たちにとって、現地でのクラウドファンディングという新しい選択肢が示されたわけだ。しかも、クラウドファンディングにはゲームの認知度を高める効果もある。
この記事では、まず、『早咲きのくろゆり』の事例を紹介してから、tumblbugについて少し説明をさせていただきたい。
百合青春ストーリーでループもの
『早咲きのくろゆり』は、イラストレーターのフカヒレ氏(Twitter)とゲーム制作ユニット1000-REKAとの共同百合ゲームプロジェクト。儚く切ない百合イラストを得意とするフカヒレ氏が原案・原画を担当している。

各章では悲劇的な結末を迎え、ループしてそれを回避することがゲームのサイクルだという。ときに物語中に選択肢を割り込ませ、運命を変えるワードを文字入力(タイピング)するゲームシステムになるとのこと。
本作は、2022年2月からCAMPFIREでクラウドファンディングを開始し、目標額の800%を超える525万9360円を集めた。そして、2023年2月1日に公式サイトとSteamストアページをオープン。2023年発売予定と発表されている。
対応言語は日本語と中国語(簡体字)だ。ストアページを見た限り、現在は英語の対応予定がなく、今回のクラウドファンディングで韓国語対応が先に決定したことになる。
返礼品には、作中の高校の生徒手帳をイメージしたパスケースがあり、登場人物の学生証も入っている。舞台は日本の高校だが、この返礼品は韓国語に翻訳される予定だ。
また、公式Twitterアカウントで連載された前日譚の漫画も韓国語に翻訳される予定で、この漫画のデジタルブックも返礼品のひとつとなっている。
きっかけは翻訳者の言葉から
先述のとおり、開発元1000-REKAのTwitterアカウントは、韓国の有志から『早咲きのくろゆり』韓国版を出したいとの申し出があったことに言及している。
さらに、韓国でのクラウドファンディングの説明文によると、「韓国語翻訳者」からの提案だという。筆者もゲーム翻訳をやっているので、これには驚いた。
日本から韓国のクラウドファンディングサイトをうまく利用するためには、その利用方法やトレンドについて知り、翻訳費用の相場を調べたうえで目標金額を設定しなければならない。プロジェクトの準備にも翻訳が必要だ。翻訳品質をチェックできる人を確保できれば、なおよい。
資金調達に成功してからは、ゲームテキストの翻訳を依頼できる翻訳会社(あるいは、フリーランス翻訳者)の情報もあったほうがよい。そうした事情に通じている翻訳者がいれば大きな助けになるだろう。
『早咲きのくろゆり』の事例で、その韓国の有志の方がどこまで関わったのかは明らかになっていないが、きっかけを作っただけだったとしても画期的だ。
日本からtumblbugを利用できる?
注意が必要なのは、tumblbugがほぼ韓国国内向けだということだ。
ユーザーが後援者となるには、連絡先の認証のために韓国の携帯電話番号を入力しなければならないし、決済手段も韓国のものを使う必要があるようだ。つまり、後援者になってくれるのは韓国国内ユーザーだけと考えておかなければならない。
クリエイターがプロジェクトを立ち上げるには、tumblbugからの連絡とファンディング成功時の精算のために、下記のものが必要となる。
- 本人名義の(韓国の)携帯電話番号とメールアドレス
- 身分証明書または事業者登録証
- 韓国国内の銀行口座
これは韓国だけでなく、海外のクラウドファンディングでよくあることだが、現地の銀行口座などが必要となり、日本からクラウドファンディングを申請するのは難しい。
代行サービスやパブリッシャーにも期待
そこで申請のサポートをしてくれるのが、クラウドファンディング代行サービスを提供する会社だ。例えば、日本に拠点を置く韓国専門商社で、日本のクラウドファンディングプラットフォームを運営する会社と業務提携している会社もある。
ただ、こうしたサポートには時間が必要で、コンサルティングを始めてからクラウドファンディング申請まで何か月もかかる場合もある。また、ビデオゲームに関してはまだ事例が少なすぎるため、代行サービスの経験が豊富な会社はないはずだ。
なお、代行サービスの会社だけでなく、韓国に拠点を持つゲームパブリッシャーのサポートを受けても、韓国でのクラウドファンディングは行えるだろう。tumblbugのビデオゲーム部門でクラウドファンディングを行なったパブリッシャーは3社確認できている。
今後、成功事例が増えて情報が共有され、韓国でのクラウドファンディングがもっと利用しやすくなることを期待したい。クリエイターと現地のファンがうまくつながって翻訳費用の問題を解決できるというのは、実に望ましいことではないだろうか。
基本情報 | |
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開発 | 1000-REKA |
販売 | 1000-REKA, mirai works |
配信日 | 2023年発売予定 / 日本語有り |
定価 | 未定 (Steam) |
韓国クラウドファンディング | (tumblbug) |