『Dordogne』は、フランス南西部のドルドーニュを舞台に、祖母と過ごした少女時代の思い出を振り返るストーリー主導のナラティブアドベンチャーゲームだ。
祖母ノーラの遺言に導かれてドルドーニュを訪れた主人公ミミは、祖母の家や、彼の地の風景を見て回るうちに、だんだんと過去の記憶がよみがえり、現在と過去を行き来するかのように少女時代の出来事をたどっていくこととなる。
主人公の父親と祖母の関係性は良好ではなく、現在のミミ自身も父親とぎくしゃくしている。最近は仕事も失って大きなストレスを抱えた彼女は、この旅を通じて家族との関係性も見つめ直していくことになるのだ。
現在と過去を行き来する
本作はチャプター制となっていて、ドルドーニュにある祖母の家を中心として、その周辺のさまざまな場所をめぐりながら、少女時代の思い出を振り返っていく。現在の大人としてのパートと、少女時代の思い出のパートが交互に繰り返されていく形だ。
同じ場所であっても、それぞれの視点で見えるものや、感じるものは異なる。時間が経ったことで変化したことはもちろんあるが、大人と子どもとでは、そもそもの視点自体が違うからだ。
大人のパートでは記憶を呼び起こすための探索が中心となり、例えば閉ざされた場所に入るためにギミックを解いたり、前提条件として必要なアイテムを見つけたりといったパズル的な要素が用意されている。
また、残された手紙やメモなどを見つけることで、主人公が生まれる以前から祖母が亡くなる直前にいたるまでに、数世代にわたって家族に起きた出来事も知ることができる。
時折り携帯電話に届く、家族や友人からのメールも重要な要素となっていて、現在の彼女の境遇も相まって大人らしい複雑な糸の絡まりが見えるようだ。
少女時代のパートでは、彼女が祖母と過ごした4週間という長いようで短い夏のひと時を、さまざまな体験を通じて、写真を撮ったり、詩を書いたりして日記のようにバインダーに書き留めながら過ごしていく。
そこでは、厳しくも優しく努めようとする祖母の思いにも触れることになり、それは今現在の彼女の心の内に残ることになるのだ。
心に残る色鮮やかな風景
本作の特徴として、手描きの水彩画によって彩られたアートワークがあげられる。
特に、少女時代に見られる夏のドルドーニュの風景はどこをとっても色鮮やかで、もしかしたらそれは、子どもながらに現実よりも鮮やかに見えていたものなのかもしれない。
先に触れたとおり、そうした風景を写真に撮影したり、そのときの体験を象徴する言葉を組み合わせた詩として残したりできる。写真の選択や、言葉の組み合わせ、それぞれの配置などはプレイヤーの自由なので、オリジナリティのある表現が可能だ。
この日記(バインダー)は、祖母自身の思い出の品として少女時代の主人公に受け継がれるものでもある。大人のパートではその手にはないが、こうして書き留められたものをまた目にする機会もあるのだろうか。
ドルドーニュを訪れるきっかけとなる、祖母が主人公に宛てた手紙には、ミミにある贈り物を遺したことが記されていた。それはおそらく、少女時代の祖母との思い出と深いつながりのあるものだろう。
祖母と主人公、そして、家族の絆が紡がれる物語をぜひたどってみてほしい。
本作は日本語をサポートしており、すべてではないが、イベントシーンによっては日本語の吹き替え音声も収録されている力の入れようだ。しかし、リリース前にプレイした時点では、一部のテキスト(セリフ周り)においてやや不自然な言い回しが混ざっている印象を受けた。
情緒的な表現の多い作品なので、こうした部分が改善されればよりすばらしいものとなるだろう。今後のアップデートに期待したい。
基本情報 | Dordogne |
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開発 | UN JE NE SAIS QUOI, UMANIMATION |
販売 | Focus Entertainment |
配信日 | 2023年6月14日 / 日本語有り |
定価 | 1,990円(Steam) |