愛らしいハトの駆け出し医師が目にした現実『Fall of Porcupine』


Masa Kei
Masa Kei

2023.06.17

Fall of Porcupine』(ヤマアラシ町の秋)は、人間を動物キャラクターに置き換えた可愛いアートスタイルでありながら、医療に関する重いテーマを扱ったストーリーアドベンチャーゲームだ。

プレイヤーはハトの駆け出し内科医フィンリーとなってヤマアラシ町の病院で働きながら、同僚、患者、町の住民たちと交流していく。

▲回診で患者から病状を聞いて回ろう

ストーリーものは日本語で楽しみたいが……

発売日の告知によると、言語実装に際しての重大なバグにより、発売日に予定していたアジア言語(中国語、韓国語、日本語)のリリースが延期になったとのこと。

※追記(2023年10月4日)
2023年9月28日のアップデートにより、待望の日本語が追加された。

本編の前日譚にあたるデモ版も日本語対応しており、プレイしておいたほうが主な登場人物を把握しやすい。興味のある方は先にデモ版を遊んでおこう。

▲フィンリーは数週間前に赴任したばかり

誠実な医療ドラマとしておすすめ

ネタバレしすぎない程度に本作のテイストについて触れておくと、主人公のフィンリーがとぼけた感じのいいヤツで、患者に対してはいつも誠実であろうとしていて、その点は安心して見ていられる。

一緒にバーに行く同僚もいるし、担当患者やその家族と知り合いになって町ですれ違うようになり、山に散策しに連れていってくれる友人も出来て、徐々に町に馴染んでいく。

▲看護師のカール、同僚の医師ミアとバーに

本作には医療従事者が直面するさまざまな困難が描かれており、その中には人の死と向き合うことも含まれる。だが、デフォルメされた動物キャラクターで表現されているぶん、残酷さが軽減されているとも言えるだろう。

不安を反映した悪夢を見るシーンはあるが、ホラーゲームのように過度にプレイヤーを驚かせたり怖がらせたりする意図はなさそうだ。後味の悪い「鬱ゲー」というよりは、真摯な医療ドラマだと感じた。

▲病院は住民たちの批判にもさらされる

フィンリーは内科医で、患者の病状と根気よく付き合っていくのが仕事だ。ここには手術でなんでも解決してしまう凄腕の外科医はいない。病院の施設は老朽化しているし、過去には医療事故もあって、不信感を抱く住民もいる。

ゲームを進めるにつれて精神的につらい場面が増えてくるので、ゲーム開始時の警告に従って、気分が悪くなったらいったん休憩しよう。特にクライマックスは重大な事件に発展して、過酷な現場を経験することになる。

病院に出勤して回診する毎日

毎日フィンリーは自宅のベッドで目覚め、町を歩いて勤務先の病院に向かう。タスク管理は電子化されていて、スマホのアプリでその日の回診予定を確認できる。毎日3人の患者のところに行き、病状を聞き取って、さまざまなミニゲーム形式の診察と治療をしよう。

▲各色のゲージを増減させる薬を選んで目標値に合わせよう

病院でのミニゲームはA、B、Cの3段階評価がつく。回診が済んだら指導医に報告してから帰宅。仕事帰りや出勤前に誰かと会う約束をすることもよくある。

▲ミニゲームの評価。失敗もしてますけどね!

スマホのメニューから、次の行先を確認できたり、今まで出会った登場人物のプロフィールを見たりもできる。会話の内容を忘れてしまっても行き詰まらないように配慮されているのは親切だ。

▲ヒント機能のおかげで行先に迷わない

ミニゲームは練習させてほしかった

少し気になるのは、セーブ機能はオートセーブのみで、ミニゲームに失敗したときにすぐリトライできないことだ。セーブされた箇所からやり直すと、その日の回診を始める前に戻ってしまう場合が多い。

ミニゲームの評価が低くてもゲームオーバーにはならないようだが、まだルールをつかめていないうちに低評価がつくのは嬉しくない。患者の病状が悪化していくのが自分のせいのように思えて、患者と顔を合わせるのが気まずくなってしまう。納得いくまで練習やリトライができるようになっていれば、もっと良かっただろう。

▲同僚とシュート競争。仕事以外にもミニゲームが豊富

あの名作と比較されがち?

本作のアートスタイルは、名作アドベンチャーゲーム『ナイト・イン・ザ・ウッズ』を思わせるが、あのゲームには膨大なイベントが用意されていて、ジャンプを駆使して高い所に登ってみると発見があったのだが、『Fall of Porcupine』はそこまでリッチな作りにはなっていないようだ。

ジャンプが必要となる場面は限られていて物足りなさを感じるが、あっても邪魔にならない要素と言えるだろう。山に行ったときに足場へ飛び移って進んでいく地形があったし、建物内にもジャンプして侵入できる場所がひとつあった。探せばもっとあるかもしれない。

▲山では足場に飛び移って進もう

総評としては、既存の名作と比べすぎないほうがいいけれども、こういった愛らしい動物キャラのストーリーアドベンチャーゲームが増えるのは嬉しいし、医療を題材にしたゲームは貴重だ。

気になっていた方は、日本語が追加されたこの機会にぜひ遊んでみてほしい。


基本情報
開発 Critical Rabbit
販売 Assemble Entertainment
配信日 2023年6月15日 / 日本語有り
定価 2,300円(Steam) 2,200円(Xbox
Indie Freaks

Support us