不安定で複雑な恋愛模様『Milky Way Prince – The Vampire Star(ミルキーウェイ・プリンス)』日本語新訳版 プレイレポート


朝比奈 / Asahina

Milky Way Prince – The Vampire Star(ミルキーウェイ・プリンス)』は、クリエイターのLorenzo Redaelli氏の実体験をベースに制作されたという、境界性パーソナリティ障害と依存関係の共感覚を描いた恋愛ビジュアルノベルゲームだ。

本作は、Steamにて2020年8月13日にリリースされ、海外を中心に高い評価を得ていたものの、同年12月に追加された日本語翻訳の品質はあまり良いものとは言えず、いっそ原文(英語)でのプレイが推奨されていたほどだった。

しかし、この度2023年7月19日にラブムー名義でライター/ゲーム翻訳をされている堀内愛月氏によって新訳された日本語が、フォントを含めアップデートで差し替えられた形だ。本記事では、この新訳版でのプレイレポートをお届けしよう。

流星から紡がれる2人の関係性

ある日、自宅で空を見つめていた主人公の青年ナキは、空に今にも落ちてきそうな輝く流星を見つける。外へと飛び出し、星が流れていった先へと向かうと、ぼんやりと座り込むもう1人の主人公スーンの姿があった。

まるで、部屋に置かれた流れ星の王子の童話を彷彿とさせるかのような出会いに、ナキは「君はミルキーウェイ・プリンス?」と呼びそうになるのだった。

本作のゲームシステムは、画面上に映し出された画像を背景にテキストを読み進めることでストーリーが展開するビジュアルノベル形式だ。チャプター制となっていて、ストーリー上での一定の区切りを以て次のチャプターへと移る。

選択肢によって展開が分岐・変化していくことになるが、そればかりではなく、ポイントアンドクリックでアイコンやオブジェクトに触れることでも展開していく。なにを触れるのかということも、また選択なのだ。

それらは一見してバラバラのようだが、読み進めると1つの大きな枠の中で意味のあるものが紡がれていたとわかるのは面白い。

▲ナキとスーンが触れ合うシーンでは、五感を象徴化したアイコンが描かれる。

本作では基本的に、主人公の青年ナキの視点で語られ、自身の独白や、もう1人の主人公スーンを相手とした会話を主軸に構成されている。

2人は共に男性で、わりと早い段階で情熱的な模様が描かれる。それを単純に恋愛関係と呼んでしまっていいのかは測りかねるが、少なくともそこにはお互いに向けられた好意や愛情といったものがあり、いわゆる「ボーイズラブ」に類するものとして、翻訳の巧みさによってある種の美しさと……危うさのようなものが感じられた。

そして、それ自体は大きく強調されるものではなく、ごく自然な当たり前のものとして惹かれ合う様が描かれていることが印象的だった。

▲白・黒・赤などの単純な色で抽象化されたアートスタイルも魅力。

ストーリーが進むにつれて、その関係性はより深まっていくが、そこに自己の不安定さや、突然の感情の発露や浮き沈みといったものが表れてくる。筆者は専門的な知見を持ち合わせていないので、見たままに捉えることしかできないが、同様に受け取り方はプレイヤーによってさまざまだろう。非現実的なシーンもあるが、それがナキだけに見えているものなのかも解釈が分かれる。

本作はマルチエンディングを採用しているため、最終的な結末も分かれることになるが、この先はぜひ皆さんの目で体験してほしい。

日本語新訳への差し替え

記事冒頭で触れたとおり、本作に収録されていた日本語テキストが2023年7月19日にアップデートされ、新訳へと差し替えられた。

ゲーム全体としてのワード数はそこまで多くはないものの、等身大の彼らを捉えた言葉選びや、詩的で情緒感のあるテキストとなっていて読み応えがあり、違和感なくプレイしやすいものになったと感じられた。

『ミルキーウェイ・プリンス』3年越しの新訳版リリースについて(by翻訳者)|ラブムー
あなたは2020年に発売された『ミルキーウェイ・プリンス』というイタリア生まれの恋愛ノベルゲームをご存知だろうか? まったく知らないかもしれない。タイトルは聞いたことがあるかもしれない。あるいはすでにプレイしていて、ほろ苦い印象を持たれているかもしれない。そういった方にはこのnoteを読んで頂き、本日(2023年7月19日)に再リリースされた『ミルキーウェイ・プリンス』新訳版をプレイして頂けるとすごく嬉しいです。 銀河の王子との出会い 3年前の寒い冬の夜、初めて『ミルキーウェイ・プリンス』をプレイした日のことは今でも忘れられない。ライター山田集佳さんのIGN Japanレビューを読
▲堀内氏のnoteにて、本作への熱意と新訳にいたる経緯が語られている。

媒体や言語の別によらず、オリジナルとなる原文から翻訳されたものは100%同じ作品とは言えないという意見もあると筆者は認識しているが、そうだとしても日本語を母語とするプレイヤーにとっておそらく最も理解しやすい言語で体験できることは、得がたいことだ。

旧訳の実装から3年という時間を経て、より自然に理解できる形で楽しめるようになったこの機会に、原文や旧訳版でプレイ済みの方も、再度プレイしていただければ幸いだ。

Steamのストアテキストにもある通り、本作は「虐待」や「境界性パーソナリティ障害」といった内容が含まれる。プレイヤーによっては、精神的苦痛や動揺を感じる可能性があることがゲーム側でも注意喚起されているので、その点を踏まえてご自身の判断でプレイしてほしい。
 
また、作品の性質上、一定の性的表現が含まれている点についてもご留意いただきたい。


基本情報 ミルキーウェイ・プリンス
開発 Eyeguys, Lorenzo Redaelli
販売 Santa Ragione
配信日 2020年8月13日
2023年7月19日 / 日本語新訳版
定価 1,520円(Steam
Indie Freaks

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