児童書のページをめくるように綴られる物語『OU』先行プレイレポート


朝比奈 / Asahina

OU』は、児童書の挿絵のような手描きのグラフィックが特徴的なピクチャレスク・アドベンチャーだ。これは、本作オリジナルのジャンル名として掲げられたもので、一般的には横スクロールのアクション・アドベンチャーゲームと言ったほうがわかりやすいだろう。

本作は、ゲームデザイナー/グラフィッカーとして活動されている幸田御魚氏が企画・シナリオ・デザインを担当された作品で、幸田氏によって描かれた緻密なグラフィックこそが『OU』の魅力であり、特徴となっている。

また、情緒ある世界の体験を提供することを目的としたインディーゲームレーベル「ヨカゼ」が取り扱うタイトルとして、注目していた方もいらっしゃることだろう。本記事では、この不思議な世界観の魅力をお届けしよう。

記憶を失った少年は物語を追って旅立つ

干上がった河原の底で、記憶を失くした状態で目覚めた主人公の少年OUは、尻尾に火をつけたオポッサムのサリーに導かれるままに「組み立ての杜(もり)」という場所に向けて旅立つこととなる。

言葉を発することができないOUに代わり、言葉によって旅を物語るのはサリーの役目だ。ボキャブラリーに富み、深い知識と洞察力に優れる彼は主人公に物事を説明したり、伝えたりするが、それは同時にプレイヤーをも導いてくれているかのようだ。

▲サリーの言葉は、ときに深くて美しい。

本作の舞台となるのは、おぼろげな景色に包まれた世界ウクロニア。森の小径、夜の海岸、海辺の街など、OUとサリーはさまざまな場所を旅していく。どこもオレンジがかった焦げ茶色を基調としたトーンで描かれているが、象徴的なものは色付けられていることもあり、そのすべてが物悲しいわけではない。

この世界は、池や川などのによって各地が繋がっていて、水面に飛び込むことで、絵本を次のページへとめくるように別の「場面」へと移動する。行き止まりのように見えて、別のところへと通じている不思議な世界だ。

その道行では、OUが目にした光景と、サリーが語る物語によって全体のストーリーが展開していく。簡単なパズル要素や、アクション要素が要求されることもあるが、ほとんどは端から端まで歩いて水面へと飛び込むというのが基本の流れだ。

絵本をめくるように、さまざまな出来事を目にしていく体験が本作の主軸となるものなのだろう。

付箋によって残るもの

記憶の無いOUがカバンの中に唯一持っていたもの、それが「付箋(ふせん)」だ。小さなメモ用紙にちょっとしたことを書いてどこかに貼っておくものだが、本作では別の目的にも使える。

1つは本来の使い方とも言うべきもので、旅の最中に見つけたものに貼っておくことで、後からそれを思い出すことができるようにするもの。コレクション要素と言ってしまうと味気ないが、記憶の無いOUが目にしたものを忘れないようにするためのものだ。

自分たちの境遇を詩的な表現で顧みたり、物事の本質に迫ろうとする哲学的な言葉(おそらくサリーが語っているのだろう)が書かれていたり、見たままの感想のようなものであったりするが、思い出とは得てしてそういったものなのかもしれない。

もう1つは、何かに対して投げること。鳥の巣に当ててその中にあるものを手に入れたり、酒瓶を倒して次の場面へと移動するための水面を作ったり、やがて異質な存在と出会ったときに役立つこともあるかもしれない。

また、付箋にはさまざまな種類があり、デザインの違いというだけではなく、例えば「ものを燃やす」効果を持ったものもある。それは道中に隠されていて、先に進むためのキーアイテムとして機能することもある。これはほぼノーヒントで、プレイヤーによっては詰まりやすいポイントになっているのが気になるところなので、ここでは意識して探索することをおすすめしておこう。

そして、なぜ付箋なのかということもまた、本作を象徴しているかのような意味を持つが、これも物語を進めることで気づくこともあるはずだ。

旅の先に待つ新たな発見

最後に、ここでは詳細を語ることはできないが、本作はある種の「周回」をすることで変化が訪れる仕組みが存在している。最初にこの世界とルールを知り、次に変化を目にする。通り過ぎるだけだった場面が意味のあるものに変わり、新たに誰かと出会えることもあるかもしれないのだ。

旅を重ねた先に待つ、この物語の本当の目的と、その結末がどういうものになるかは……ぜひ皆さんの目で確かめてほしい。

穏やかな楽曲が情緒感を高める

『OU』をいう作品を形作っているのは、そのグラフィックだけではなく、物語の雰囲気に馴染む穏やかな楽曲が情緒感を高めている。

任天堂を経て、現在はフリーランスの作曲家として活動されている椎葉大翼氏が手掛けており、本作を開発したroom6のタイトルでは『From_.』や『World for Two』を担当されていることでご存じの方もいらっしゃるだろう。

ゲーム楽曲とは、いつか時間を経てふと聴いたときに、そのゲームをプレイした際の体験を思い起こさせるような効果も持っているように思う。椎葉氏が作曲し、アーティストのみけたはな氏が歌う印象的な主題歌を含んだオリジナル・サウンドトラックも合わせてリリースされているので、こちらにも耳を傾けてみてはいかがだろうか。

OU Original Soundtrack on Steam
Delicate Blooming Melodies

基本情報 OU
開発 room6, G-MODE
販売 G-MODE, yokaze
配信日 2023年8月31日 / 日本語有り
定価 2,400円(Nintendo Switch
2,400円(Steam
Indie Freaks

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