古き良き時代を深く愛した正統派RPG『Sea of Stars』


朝比奈 / Asahina

Sea of Stars』は1990年代の古き良きRPGにインスパイアされ、美麗なピクセルアートで描かれるクラシックスタイルのターン制RPGだ。

本作は、カナダのケベックを拠点とするインディーゲーム開発スタジオ"Sabotage Studio"が、2020年にクラウドファンディングサイト「Kickstarter」にて開発資金調達を目的とするプロジェクトを開始。そこから、圧倒的な支持の獲得により成功を収め、複数のプラットフォームで2023年8月29日(Switch版のみ8月30日)にリリースされたタイトルだ。

当初予定されていた2022年内からは多少遅れる形とはなったが、この度、待望のリリースを迎えた本作の魅力をお届けしよう。

Sea of Stars on Steam
Sea of Stars is a turn-based RPG inspired by the classics. It tells the story of two Children of the Solstice who will combine the powers of the sun and moon to perform Eclipse Magic, the only force capable of fending off the monstrous creations of the evil alchemist known as The Fleshmancer.

"古き良き"を再現するファンタジーRPG

『Sea of Stars』のストーリーは、邪悪な錬金術師フレッシュマンサーが生み出した災禍によって脅かされている世界が舞台。それに対抗し得る太陽と月の力を秘めた「至点の子」と呼ばれる2人の主人公「ゼイル」と「ヴァレア」、そして、その仲間たちによる冒険の物語を描いたものだ。

日本語のローカライズサポートは架け橋ゲームズ、翻訳は英日翻訳者の小川公貴氏が担当されており、Sabotage Studioによって2018年にリリースされたデビュー作『The Messenger』からの続投となる。

本作はストーリーを中心に物語が展開されるため、ストーリーテリングの一部としてテキストによる丁寧な描写は重要な要素となる。それによってプレイヤーは物語の世界に引き込まれ、深い感動を得ることができるからだ。小川氏による翻訳は、それを見事に表現してくれている。

ゲームシステムとしては、目的地への移動を行うワールドマップと、人々が住まう街や、探索をメインに戦闘も発生するダンジョン等のエリアで構成されている。昨今のオープンワールド形式に見られるような、最初から自由にどこにでも行ける作品とは異なり、ストーリーに導かれながら各地を巡っていく形だ。

ほどよい広さのエリア内は探索のしがいがあり、地形によって異なるユニークな移動アクションや、パズル要素やギミックを操作したり、宝箱を発見したり、遭遇した敵と戦闘を重ねたりしながら奥部へと進んでいく。

さまざまなロケーションを訪れ、魅力的なキャラクターたちとの出会いと別れを経験していくのは、まさにRPGで冒険をしているという感覚を味わえる。

これらは、後述する戦闘システムも含めて、特に1995年にSFC(スーパーファミコン)でリリースされた『クロノ・トリガー』からの影響が見て取れるので、プレイしたことがある方は同様のスタイルをイメージするとわかりやすい。

現代的な視点での「プレイのしやすさ」も意識されており(早い段階でクラウドファンディング支援者からのフィードバックも行われていた)、単なる当時の再現というものにはなっていないこともポイントのひとつだ。

工夫が凝らされたターン制のコマンドバトル

本作では、ワールドマップから訪れたダンジョン等のエリアでのみ敵との戦闘が発生する。具体的には、画面上に敵キャラクターが配置されていて、プレイヤーが範囲内に立ち入ることでそのままシームレスに戦闘に突入する「固定エンカウント」と、接触して戦闘となる「シンボルエンカウント」がミックスされた形だ。

戦闘は「ターン制のコマンドバトル」となっていて、それぞれが個性的な能力を持ったパーティメンバーと敵が、ターン毎にスキルやアイテムを使用して攻撃や回復を行うといったものだ。

もちろん豊富なバトルシステムも用意されていて、タイミング良くボタンを押すことで攻撃の威力アップやダメージ軽減ができたり、特定の攻撃を加えることで敵のスキル発動を妨害できたり、ゲージを溜めて協力してコンボ技を放てたりといったものがある。

ストーリーが進むほどに歯ごたえのある戦闘が待ち受けているが、難易度の緩和に繋がる効果を持った「秘宝」をオプション的に有効/無効にするシステムがあるので、戦闘が苦手なプレイヤーも調整しながら楽しめるはずだ。

また、本作はレベル制で装備品の概念もある王道のRPGだが、次の場所に赴くために立ち止まらざるを得ないような経験値稼ぎや、装備品を整えるための資金稼ぎをしなければいけないようなことはなく、自然に成長しながら先に進むことができるようになっている。そうしたバランス調整というのはとかく難しいものだが、本作では自然に感じられるのは見事なポイントだ。

▲レベルアップ時に自動的にアップするステータスに加えて、追加で割り振ることができる。長所を伸ばすか、短所を補うかはプレイヤー次第。

時をかけるニンジャと連なる世界

本作『Sea of Stars』の世界は、滅びに瀕した世界を舞台に時をかけるニンジャが活躍する前作『The Messenger』の前日譚にあたることが、Kickstarterにてキャンペーンが開催された時点でコンセプトとして明かされていた。

The story takes place long before the flood, where many islands are waiting for you to explore. As a full-fledged RPG, the adventure promises intrigue, perils and wonders . Those familiar with our previous work may recognize a few faces and get meaningful insight on some origin stories, as well as hints towards the bigger picture of the universe we aim to develop more with each of our games.
  
(Kickstarterの"A prequel to The Messenger"より抜粋)

▲海底神殿での邂逅シーン(『The Messenger』より)

その繋がりがわかるシーンとして、『The Messenger』の主人公があるキーアイテムを求めて訪れた「海底神殿」エリアにて、太陽と月の紋章によって開かれる部屋で言葉を交わした存在が、今作の主人公「ゼイル」と「ヴァレア」だったのではないだろうか。

同イベントでは、かつて世界の守護者だったという2人がそうした姿で残った経緯と、失われた歴史の一端が語られたが、あくまで自己完結型で制作されているので両作品をプレイしなければ楽しめないというものではないとのことだ。

『The Messenger』はメトロイドヴァニア形式のアクションゲームで本作とはジャンルが異なるが、繋がりのある作品として興味を持たれた方は、ぜひプレイしていただければ幸いだ。

クラウドファンディングの成功

冒頭で触れたとおり、『Sea of Stars』は2020年にクラウドファンディングサイト「Kickstarter」にて開発資金調達を目的とするプロジェクトを成功させ、制作されたタイトルだ。

2020年3月20日から2020年4月19日にかけて開催されたキャンペーンでは、スタートからわずか7時間で目標額の133,000カナダドルを達成し、そのまま勢いは衰えず最終的に25,589名の支援者と、1,628,126カナダドル(現在の為替レートで約1億7,500万円)という圧倒的な支持を集めて終了している。

前作『The Messenger』の成功から、Sabotage Studioとしても相当の自信を持って挑んだものと思うが、予想を大幅に超える反響であったことが当時の報告からも見て取れる。それは、前作でしっかりとした足場固めと熱心なファン層が形成できており、往年のRPGファンに向けた明確なコンセプトを打ち出せていたことが、成功に結びついた要因なのだろう。

▲支援の拡大に伴い、当初の計画よりも多くのコンテンツが実装された。

余談だが、筆者もこのKickstarterプロジェクトの支援者(バッカー)となっている。

約3年間の開発期間中、クローズドなプライベートデモ(テストプレイ)の参加を経て、公式Discordサーバ上での要望や改善点のフィードバックが積極的に行われていた印象だ。開発チームからも定期的な報告が行われていたので、数年という時間を経てもモチベーションを保ったまま待つことができた。

▲前作で語られた、Sabotage Studioを支えるメンバーに向けたメッセージを覚えているだろうか。筆者も彼らを応援したかったのだ。(『The Messenger』井戸の少年の話より)

また、内容は支援額によって異なるが、筆者の場合はゲーム本体を含めた以下の報酬(リワード)を受け取っている。クラウドファンディングでの支援はリスクを伴うものであり、それを実際に手にするまでには長くかかるケースもあるが、ファンとして彼らを支えた証のようなものを得られることは良いものだ。

  • Steamキー(プラットフォームは選択可能)
  • 支援者限定のサイドストーリーDLC『Throes of the Watchmaker』(本編リリースから数ヶ月後に配布される予定)
  • PC版のプライベートデモへの参加
  • ゲーム内に登場するモニュメントへの刻銘
  • クレジットへの名前掲載
  • 壁紙(PC, モバイル用)
  • オリジナル・サウンドトラック(デジタル)
  • オリジナル・サウンドトラック(iam8bit製のLPレコード)
  • デジタルアートブック
  • 公式Discordサーバの専用ロール

新たなアイデアを持ったインディーゲーム開発を、クラウドファンディングという形によって支援することの魅力については、弊誌でも紹介記事を公開しているので、よろしければ併せてご覧いただければ幸いだ。

素敵なインディーゲームをいち早く支援できるKickstarterとは?
Kickstarterで新しいアイデアのインディーゲームのプロジェクトを探してみよう!ゲームを支援する魅力的な方法のひとつを紹介。

基本情報 Sea of Stars
開発 Sabotage Studio
販売 Sabotage Studio
配信日 2023年8月29日, 30日 / 日本語有り
定価 4,000円(Steam
4,400円(Nintendo Switch
4,070円(PlayStation
4,000円(Xbox
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