ミュージカルによって紡がれる、人と神々の物語『Stray Gods: The Roleplaying Musical』


朝比奈 / Asahina

Stray Gods: The Roleplaying Musical』は、ギリシャ神話の神々が人知れず現代まで息づく世界観を舞台にした、ミュージカル要素のある選択型アドベンチャーゲームだ。主人公グレースが自分の居場所を見つけ、運命を切り開き、答えを導き出そうとする姿を描く。

本作は、BioWare出身のDavid Gaider氏らを中心として設立された新興のゲーム開発スタジオ "Summerfall Studios"のデビュー作として話題を呼び、2019年にクラウドファンディングサイト「Fig.co」にて多数の支持を集めて資金調達プロジェクトを成功させ、約3年半の開発期間を経てリリースされたタイトルだ。

他所の開発スタジオより、同名のタイトルがリリースされたことをきっかけに変更されたが、旧題の『Chorus: An Adventure Musical』で覚えている方もいらっしゃるかもしれない。

選択によって変化するストーリー

本作の主人公は、周囲に馴染めず大学を中退して間もない女性グレースだ。親友のフレディに誘われ、彼女のバンド「Eage of Elysium」のボーカルとして活動しているが、漠然とした不安と、それが本当に自分のやりたいことなのかを悩む日々を送っていた。

そんなある日、謎の女性カリオペと出会い、彼女の死に立ち会ったことでギリシャ神話の女神ミューズの魂を受け継いでしまった瞬間からグレースの運命が大きく動き出すことになる。

本作の目的は、この思いがけない出来事に巻き込まれたグレースが、神々から与えられた1週間以内にカリオペの死の真相を解き明かすことだ。そのために彼女は街を巡り、さまざまな登場人物と(ときには神々とも)対話を重ねることで真実に迫ろうとしていく。

会話の内容やストーリー展開は選択肢によって変化するが、グレース自身のパーソナルな特性(能力・性格・気質といったもの)にも影響を与える。

それらは選択肢の「」で示され、ソウルとカリスマ性を持った「魅惑的(緑)」であれば正しい行動を、パンクロックな「クール(赤)」ならば無謀で挑戦的な行動を、控えめだが「賢い(青)」ならば賢く機知に富む行動を取ろうとする、とバラエティ豊かだ。

その選択がどういう志向のものかをわかりやすく示す工夫が感じられる部分だろう。

それは歌によって紡がれる

そして、本作をユニークなものとしているのが、ミュージカル調で催される展開だ。

登場人物たちは普段通りに会話を進めていくが、状況が高まるとグレースが持つ芸術や音楽を司る女神ミューズの力によって、その場にいるあらゆる人物を巻き込んでステージ上に引き上げ、音楽に乗せて歌うように感情や物語を表現する。そうして真実を呼び起こし、引き出し、刺激するのだ。

▲その場にいる全員が歌うように物語を紡ぐ。神々でさえも。

画面上のキャラクターの仕草や表情も相まって、喜びや怒り、哀しみといったものがダイレクトに伝わってくるようで、こちらもプレイヤーと言うよりも観客のような感覚が生まれてくる。ミュージカルというもの自体に馴染みのない方もいらっしゃるだろうが、これぞまさしくゲームを通じての体験と言うべきものではないだろうか。

この魅力的な物語に、ぜひ耳を傾けてみてほしい。

すばらしいゲーム体験だが……

すばらしい体験を与えてくれる本作だが、1つ気になる箇所がある。

本作は日本語をサポートしており、英語のフルボイスに合わせて翻訳されたテキストが字幕で表示される。だが、その表示位置が一般的な「画面下部(横下)」ではなく「画面上部(横上)」なのだ。ミュージカル調であっても、あくまでテキストを読むことが主軸なので、慣れない視線移動に戸惑ってしまった。

こうしたユーザビリティに関わる部分については、オプションで柔軟に変更可能となるような、今後のアップデートに期待したい。


基本情報 Stray Gods: The Roleplaying Musical
開発 Summerfall Studios
販売 Humble Games
配信日 2023年8月10日 / 日本語有り
定価 2,990円(Steam
Indie Freaks

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