『The Cosmic Wheel Sisterhood』は、小惑星へ流刑にされた魔女が、自由を取り戻すためにカードを使って運命を読み解こうとする、テキストと選択肢を主軸とするアドベンチャーゲームだ。

本作を手掛けるのは、スペインのバレンシアを拠点とするインディーゲーム開発スタジオ"Deconstructeam"。2018年にリリースされた、サイバーパンク世界を舞台にバーを経営しながら巨大企業の陰謀に挑むSFノベルゲーム『The Red Strings Club』を手掛けたスタジオと聞けば、俄然興味を引かれる方もいらっしゃることだろう。それだけ、1つのSF作品として多大なインパクトと評価を獲得した作品だったからだ。

今作では、宇宙や小惑星といった科学的な要素と、魔女や魔法というファンタジー的な要素を併せ持つ世界観を舞台とした物語が紡がれていく。

禁忌の存在との契約で手にしたもの

本作は、自身が属する「コヴン（魔女の集団）」の運命を占うという行為により、宇宙の彼方の小惑星へと1,000年の流刑に処された魔女フォルトゥーナが主人公。その状況から脱するために、禁忌の存在として封印されていたエイブラマーを召喚するシーンから物語は始まる。

エイブラマーは契約によりその力を彼女に与えることを約束するが、それには大きな代償を伴うのだという。すでに200年という孤独な幽閉期間を経て、限界を迎えていたフォルトゥーナは、すべて覚悟の上で彼の存在と契約を交わすのだった。

本作は、登場人物同士での会話という形でのテキストと選択肢を主軸に、チャプター制でストーリーが進行していく。

舞台となるのは、フォルトゥーナが住まう小惑星の小さな家だ。それまで禁じられていた外界との接触がある出来事から解除され、彼女の元には友人やその知人の魔女たちが訪れるようになる。訪問者は悩みや問題を抱えているが、そこで発揮されるのがフォルトゥーナの占い師としての力だ。

フォルトゥーナはエイブラマーとの契約により、運命を占う手段としてデッキに収める「カード」を作成できるようになっている。カードは背景となるスフィア、主役となるアルカナ、その2つに魔力を付与するシンボルによって構成され、魔法の根源たる4元素「空気、水、土、火」のエネルギーを用いて作られる。

そして、運命に導く

既存のタロットカードと似て非なるそれは、より多くの意味を含む。例えば、慈悲・健全・権威・憧れ・情熱・誘惑といったものだ。デッキからランダムに引かれたカードに示された意味を解釈し、過去・現在・未来の出来事や、人物や集団がたどる運命を読み解くのだ。

タロット占いとは本来、抽象的なものと具体的なものの両方を含み、ヒントやアドバイスといったものに留まる。だが、フォルトゥーナの力は突出しており、契約により更に高まったそれは深く明確に物事を見通し、訪問者にその解釈を伝える際の「選択肢」という形で運命そのものを左右していくかのようだ。

カードによってさまざまな訪問者の運命が変化していき、それは彼女たちのパーソナルな悩みや問題のようでいて、実のところ相互に絡まり合って物語が動いていく。フォルトゥーナの導きによって物語はどういう結末へと至るのか。そして、彼女自身はどうなるのか。

ぜひ本作をプレイして、その行く末を読み解いてみてはいかがだろうか。

翻訳によって物語はより輝く

本作の日本語翻訳を手掛けるのは、前作『The Red Strings Club』を担当された日英ゲーム翻訳者の伊東龍氏だ。

ストーリーを主軸とし、テキストと選択肢によって構成される海外製の作品において、それをプレイヤーが理解して解釈できるかは翻訳次第だ。作品そのもののクオリティが高いことはもちろんだが、前作が国内においても評価されたのは伊東氏の尽力によるところが大きい。

今作においてもそれは健在で、ゲーム開始直後にフォルトゥーナがエイブラマーを召喚する際に唱えた、エイブラマーをして「美しい詠唱」と評した呪文の一節や、訪問者の1人である魔女グレーテとの思索に富んだ会話などの端々から感じることができた。

本作を楽しめた方へ

カードを作成する際の要素の1つ「花屋」のアルカナには、元になった短編のノベルゲーム『Eternal Home Floristry』に登場する花屋「永遠なる家」の店主セバスチャンの姿が描かれている。これは同じくDeconstructeamが手掛けたもので、itch.ioにて無料でダウンロードすることが可能だ。

短い作品だが、同スタジオの作風が色濃く表れているので、本作を楽しめた方は併せてプレイしてみてはいかがだろうか。こちらも、伊東氏によって翻訳された日本語が実装されている。