『Slay the Spire』が大ヒットしてから「デッキ構築型ローグライト(ローグライク)」というジャンルが確立され、今もそのジャンルには新たなタイトルが次々と誕生している。『Vault of the Void』『Wildfrost』『Backpack Hero』などのように、『Slay the Spire』のエッセンスを磨き上げたり、ユニークな形にしたりして新しい面白さを作り出したタイトルが多数ある。
そして、今回紹介する『Astrea Six-Sided Oracles』も、間違いなく同ジャンルで独自の輝きを放つタイトルだ。筆者と同じくこのジャンルの新作に飢え続けている方々には、ぜひともオススメしたい。

本作は、カードの代わりに6面ダイスを使用してターン制バトルを繰り広げるため、どうしても運の要素が絡む局面もある。しかし、ユニークな戦闘システムや、ダイスの出目をコントロールする手段、どのダイスを手にするかという選択など、それらを最大限利用することで与えられた運命に抗う方法が用意されている。
本作のルールは独自の用語で説明され、ストアページなどを見てもやや想像しづらい箇所もあるため、この記事では基本的なゲームシステムを中心に詳しく紹介していこう。
基礎となる概念は「正と負の存在」
『Astrea Six-Sided Oracles』には独特なシステムが多数搭載されているが、もっとも基本的で、もっともユニークなシステムを最初に説明しよう。
本作では、味方側をプラスの存在、敵側をマイナスの存在として考えている。
例えば、「プラスの効果 3」というダイスがあった場合、それを味方に使えば体力が3回復するし、敵に使えば3ダメージを与えられる。そして、同様に「マイナスの効果 2」というダイスは、味方に2ダメージを与え、敵を2回復させる。
通常のカードゲームであれば、「ダメージを与えるカード」は基本的にその効果しかなく敵にしか使えないが、本作ではそれをプラスの効果で味方にも使えるというイメージだ。選択肢の多さは戦略の幅にも繋がるので、1枚のカード(ダイス)に秘められた戦略は、この時点で通常のカードゲームより幅広い。
そして本作では、この「プラスの効果」を「浄化」と呼び、「マイナスの効果」を「堕落」と呼ぶ。

1つのダイスには浄化(プラス)と堕落(マイナス)の出目が混在していることが多く、毎ターン開始時にドローするダイス群は浄化目だったり堕落目だったりする。つまり、配られた浄化と堕落を上手にコントロールしながら、勝利を目指すゲームなのだ。
堕落をその身に受けることが徳となる
ところで、プレイヤーの最大体力は7で固定されている。体力がなくなると「ハート」を1つ失って体力を7得るが、ハートを3つ失えばゲームオーバーとなる。
中盤にもなれば50~100ほどの体力を持った敵が襲いかかってくるというのに、こちらは堕落を7受けただけで敗北にかなり近づく。そんな状況では、先述の「自分に堕落を与える」という選択肢はあまり考慮しなくていい手段のように思える。
しかし、ここで「徳義」というシステムが活きてくる。これは自分が受けた堕落の値に応じて入手できる特殊スキルだ。
ここからは具体例を挙げないと説明しきれない気がするので、初期キャラクターの「ムーニィ」に登場してもらおう。彼女の徳義は以下のようなものになっている。
- 堕落の値に関係なく「手持ちの堕落を浄化に変える」
- 堕落が計1で「ダイスを最大2個リロールする」
- 堕落が計3で「敵に浄化4を与える」
- 堕落が計5で「ダイスを1個ドローする」

入手した徳義は好きなタイミングで発動でき、使用しなければ次ターンに持ち越せる。ただし、徳義を入手できるのは「堕落がその値になった瞬間」と「ターン開始時に堕落がその値に達している場合」だ。
前者の仕組みを利用して状況をコントロールすれば、非常に有利な展開を作り出せることがある。要は、堕落を徳義を入手する値で行き来させれば、1ターンに狙った徳義を複数回使えるのだ。
堕落の値が3になった>徳義「敵に浄化4を与える」入手&使用>浄化のダイスで体力1回復(堕落の値は2)>堕落のダイスで1ダメージを自ら受ける(堕落の値が3になった!)>徳義「敵に浄化4を与える」を入手…
上記の流れは、手段があるのであれば1ターンに何度でも繰り返し発動できる。もちろん、徳義によって敵を倒すことも可能だ。徳義のシステムだけでも、「自分に堕落を与える」という選択に価値が生まれていそうだが、次に紹介するシステムがそれをさらに有効な選択として押し上げている。
敵に堕落を与えて処理すればよくない?
伝え忘れていたが、配られたマイナスの効果を持ったダイスは必ず使用しなくてはならないというルールがある。ここで、「それなら、堕落のダイスを手にしたらとりあえず敵に使って、良い出目が出るのを待てばいいんじゃない?」と思った方は優れた戦略性を備えた方だろう。

しかし、今回最後に紹介する基本システム「絶対堕落」がその選択を思いとどまらせる。
敵は体力と別に「絶対堕落」というゲージと特殊なスキルを必ず持っている。敵の受けた堕落の合計値が絶対堕落の値に達すると、特殊なスキルが発動される。それは、ダメージを与えるものであったり、敵を強化するものであったりして、だいたいは強力なスキルだ。
画像に出現しているカニのような敵を例に取ると、堕落を計6受けると絶対堕落が発動し、攻撃力がアップする。絶対堕落が発動するとゲージは0に戻るが、再び計6の堕落を受けると攻撃力がさらにアップすることになる。

ここまで紹介した「浄化と堕落」「徳義」「絶対堕落」のメインシステムが全て繋がって、ダイスの使い道をいろいろと考えられるのがとても楽しい。
「堕落3を与える」というダイス1つでも……
自分に使用して徳義を発動させるために使おうか、7しかない体力で3ダメージも受けて問題ないか、自分の体力が厳しそうなら敵に使ってしまうか、そのとき敵の体力が回復するだけでなく絶対堕落も蓄積していくが問題ないか、いっそ絶対堕落を発動させてしまうか……
というようなことを、あれこれと考えていける。先述したが、1枚の手札(ダイス)に対しての選択肢の多さが『Astrea Six-Sided Oracles』最大の魅力のように感じている。
もうここまで書いてしまったついでに…
長々と書いてしまったが、その他の興味深いシステムも箇条書きで紹介しておこう。ただし、筆者がプレイした範囲内での認識なので、例えば、6面ダイス以外が存在している可能性もわずかにある。
- カードの代わりに使用するのは6面ダイス。敵も6面ダイスを使用する。敵は基本的に1個のダイスしか振らないが、プレイヤーは初期4個のダイスを振って戦う。
- ダイスの出目には「特定のダイスをリロールする」「特定のダイスの出目を選択する」「堕落を浄化に反転させる」など、運の要素をコントロールするような効果を持つものがある。

- はじめに複数のキャラクターから1人を選ぶ(最初は1人だけしか居ない)。それぞれが独自の徳義と異なる初期ダイスセットを持っている。また、そのキャラクターでしか出現しないダイスやアイテムがある。
- 道中で「センチネル」と呼ばれるサポートキャラクターを最大2つまで入手できる。各センチネルは異なるダイスを1つ持っており、特殊スキルを備えているものもある。センチネルそのものをアップグレードすることも可能。
- ダイスを破壊してデッキを圧縮する手段や、出目を購入して好きなダイスの出目と入れ替えるアップグレードなどがある。もちろん、常に効果を発揮するアイテム(星の祝福)もある。

- 1周クリアするには1時間~1時間30分ほど。隠しボスも存在し、そこまで遊ぶと2時間ほどかかるので、独特なルールと相まってカジュアルさは多少失われている。
- いわゆる「アセンション」のような、クリア後に難易度を上げての周回要素がある。
星に降りかかる運命に抗おう
最後になったが、本作の素敵なアートスタイルも大きな魅力のひとつだ。滅びゆく星をめぐる冒険を通じて、お気に入りのキャラクターを見つけてみよう。どのキャラクターも強力で独自の戦略を持っているので、デザインの好みで選ぶのもよさそうだ。
それでは、読者のみなさんもダイス1つに運命を翻弄される、もしくは、その運命を捻じ曲げる冒険を楽しんでいただけることを願っている。
基本情報 | Astrea: Six-Sided Oracles |
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開発 | Little Leo Games |
販売 | Akupara Games |
配信日 | 2023年9月22日 / 日本語有り |
定価 | 2,800円(Steam) |