離島ののどかな農場生活に潜む謎と秘密『ハーベストアイランド:収穫島』プレイレポート&開発者/翻訳者インタビュー


朝比奈 / Asahina

ハーベストアイランド:収穫島』は、インディーゲーム開発スタジオ"Yobob Games"が手掛ける、離島を舞台に農場生活を営むストーリー主導のアドベンチャーゲームだ。

牧歌的な雰囲気の農場の様子を描きながらも、どこか不穏なホラー要素を感じさせるトレーラーの内容に、興味を惹かれた方もいらっしゃるのではないだろうか。

本記事では、リリース直前に筆者が体験させていただいたテストプレイの内容と本作の魅力についてご紹介しよう。また、開発者のKevin Le氏と、翻訳を担当された英日ゲーム翻訳者のそえる03氏へのインタビューも掲載しているので、併せてご覧いただければ幸いだ。

Harvest Island on Steam
Harvest Island is a horror, farming simulator. Pray to the gods and never ask questions as you enjoy your blissful farming days. Just don’t wander off too far from the comfort of your home. It’s safer to play around the farm than discovering the secrets and mysteries of this remote island.

自然豊かな離島で自給自足の農場を営む

本作では、豊かな森と海に囲まれた離島を舞台に、主人公となる兄ウィルと妹サマンサ、父親のグレイソンの3人家族で農場を営んでいく。

農場は小さいながらも農作物を育てる畑があり、牛・羊・ニワトリといった家畜も飼っていて、森や海からも素材や食材が採れるので、自給自足が成り立っている。そうして日々の糧を得ながら、神様の祭壇にお供え物を捧げる、というのどかな暮らしだ。

自宅にはクラフト台があり、さまざまな農具や道具を制作したり、農場設備の開発や拡張が可能。キッチンや焚き火では調理もできるが、それは食事によってスタミナと疲労を補って行動時間を延ばすためのもので、空腹や喉の乾きの概念はない。サバイバルゲームではないので、その点は割り切っているのだろう。

家族以外に島民はいないので経済の概念はないが、設備が整っていくことで効率よく素材を採れるようになったり、新たに制作した道具によって島の探索可能な範囲が広がったりしていくのだ。

なお、一概に「農場シミュレーション」と言ってもさまざまなスタイルがある。

今作はプレイヤーの思うように建物を建築したり、好きな場所に畑を拓いたりといったことができるのではなく、あらかじめ決められた範囲内で拡張されていくタイプであることは念頭に置いておこう。

そうした部分の不自由さはあるが、しっかりと意味のある拡張要素やクラフト可能なアイテムは多岐に渡るので、十分なボリュームが感じられるはずだ。

島に潜む謎と父親が隠す秘密とは?

日々、島での生活をしていく上で、兄妹は素材や食材を探したり、神様へのお供え物を集めるために自然と島内を歩き回ったりすることになる。そこで起きた出来事や発見、会話をきっかけに目的(クエスト)が生まれ、ストーリーが展開していく

この島にはウィルたち家族以外は住んでいないはずだが、かつて誰かがいたような痕跡があったり、見知らぬ謎の人工物が隠されていたりする。ときには、恐ろしいシーンに出くわすこともあるかもしれない。

だが、父親に尋ねてみても、もっともらしい答えを返されたり、強引に話を打ち切られたりしてしまう。兄妹にとって父親は唯一の大人で頼るべき存在だが、求めた答えを得られないがために、やがて自分たちでその謎に少しずつ迫ろうとしていくのだ。

▲探索範囲が広がると、遭遇する謎も増えていく。

今作では兄妹の視点でストーリーが進んでいくので、彼らが感じる素直な疑問や見えているものが、その行動や言葉として示されることでプレイヤーを誘導してくれる。

そこには、思春期の少年らしいウィルの感情の移ろいや、幼さから来るサマンサの無邪気さや聞き分けの無さといったものも描かれていて、ただストーリーを追うだけに留まらない読み応えやバランスの良さが感じられたのは、翻訳の妙だろうか。

農場シミュレーションというジャンルは、少なからず地道な作業が待っているので、単純に農場を大きくすることだけを目的とするとモチベーションを保てないことがある。その意味において、農業シミュレーションと謎を呼ぶストーリーというのは、うまい組み合わせだ。

この島に散りばめられた謎は多く、先に進むほどに「なぜ?」という疑問が増えていく。前提条件として、農場の拡張や新たな道具をクラフトするといった要素がリンクしているので、ややゆっくりとした展開に感じるかもしれないが、ぜひこの島の真相にたどりついてほしい。

開発者/翻訳者インタビュー

ここからは、開発者のKevin Le氏と、翻訳を担当された英日ゲーム翻訳者のそえる03氏に実施させていただいた、インタビューの内容をご紹介しよう。

普段うかがい知る機会の少ない開発の背景や、日本語サポートに至った経緯、翻訳の舞台裏など興味深い内容となっているので、ぜひご覧いただければ幸いだ。

開発者:Kevin Le氏

【質問】自己紹介をお願いします。

Yobob GamesのKevin Leです。

Yobob」は13歳の時に遊んでいたMMORPGで考えたハンドルネームなのですが、"やあ"という意味の「Yo」と、どこにでもいそうな「Bob」という名前の組み合わせが匿名のオンラインゲームにはピッタリだと思ってこの名前にしました。それがそのまま、今の開発スタジオ名になっています。

大学では物理を専攻し、その傍ら作曲をしたり小説を書いたりしていたのですが、最終的には夢だったゲーム開発者の道を目指すことにしました。これまでには『Em-A-Li』、『The Chains That Bound Me』など、5つのゲームを開発してきました。

【質問】開発を始めたきっかけは?

いとこもゲーム開発者を目指していて、彼を見ていて「あいつよりいいゲームを作りたい」と思ったのがきっかけです(笑)。

ですが、いとこは、同じような作業を永遠に繰り返さないといけないゲーム開発が嫌になりやめてしまいました。逆に私は、やりがいを感じられるゲーム開発にのめりこんでいきました。

【質問】隠された真相に迫っていくストーリーと、農場シミュレーションという組み合わせはユニークな印象を受けますが、この形を目指したのはなぜでしょうか。

これまでには、先に紹介した5つのゲームを開発してきたのですが、どれもほとんど注目を集めることができませんでした。なので、今までにない斬新なゲームを作ろう、ということでホラー農業シミュレーションという2つのジャンルを組み合わせたゲームを作ろうと決意しました。

インディーゲームの界隈で際立つためには他とは違うゲームを作らないといけない、と実感していましたし、この2つのジャンルは今までやってきたこと、つまり、作曲と小説執筆のスキルも活かせると考えたからです。

そういうわけで、「ストーリー主導のホラー農業シミュレーター」という方向性が固まりました。

【質問】影響を受けた作品はありますか?

日本のアニメが大好きなので、その影響は大きいと思いますね。今作については、特に『約束のネバーランド』から多くの着想を得ました。

【質問】開発期間はどの程度かかりましたか?

今作『ハーベストアイランド:収穫島』の開発には3年半費やしました。ストーリーの元にもなっている『The Chains That Bound Me』には4年かかりましたが、こちらは開発停止中です。

【質問】日本語をサポートしようと思った特別な理由はありますか?

過去作での失敗を踏まえて、今作では新しいジャンルに挑戦するだけではなく、海外にも目を向けていかないといけないと思っていました。もし、ゲーム開発者としてのキャリアを考えるならば、ローカライズは絶対に必要になると確信していたからです。

翻訳者さんに関しては、他の言語ではたくさんのフリーの翻訳者さんから声をかけていただいたのですが、日本語の翻訳者さんはまったく見つからず、探し始めてからそえるさんにお願いできるまでに6ヶ月もかかりました。

日本語のゲームテストにも1ヶ月弱しか時間がとれず、なんとかここまで漕ぎ着けたという感じです。

【質問】本作をプレイされる方に向けてぜひメッセージを!

アニメが大好きなので日本のプレイヤーに遊んでもらえるのが嬉しいです。ところどころに複数のアニメのネタを仕込んであるので、たくさん探索して見つけ出してみてください。

翻訳者:そえる03氏

【質問】自己紹介をお願いします。

日本語翻訳を担当した、そえる03です。

これまでには『Chained Echoes』、『ポケットミラー〜黄金の夢〜』、『Bendy and the Dark Revival』日本語版の全翻訳を担当しました。その他、部分的にですが70ほどの作品の翻訳・校正などに関わらせていただいています。

【質問】本作を手掛けることになったきっかけは?

『Chained Echoes』の音楽を手掛けられた、Eddie Marianukrohさんのつながりで本作『ハーベストアイランド:収穫島』と、開発者のKevin Leさんの存在を知りました。その後、日本語ローカライズをしたくて、という話をKevinから聞き、私が担当させていただくことになりました。

【質問】こだわりのポイントなどはありますか?

こだわりというか、大変だったポイントになるのですが……。

このゲームは過去に未完成のα版が配信されていまして、そのバージョンでは、開発者の非ネイティブの知人が仮で日本語版を作成していたんです。

今回そのα版の部分も含めて、私がすべて翻訳し直したのですが、ゲーム側に実装する時にどこが仮訳のままでどこが訳し直した部分なのかごっちゃになってしまい、最終配信までに何度も翻訳の再実装を繰り返したという苦労があります……。

【質問】翻訳にあたり注意された点はありますか?

ホラー要素のあるゲームではあるのですが、基本的にはすべて兄妹と家族のやり取りでストーリーが進んでいくので、そのあたりが安っぽくならないよう特に気をつけました。

また、チュートリアルの本や、途中で出てくる橋の看板のビジュアルは日本語版にあわせてアート担当の方に調整してもらっています。フォントについても翻訳作品でよくある中国語フォントではなく日本語フォントを実装し、「いかにも翻訳しました感」を極力無くせるようがんばりました。

▲これが日本語版でビジュアル調整されている看板だ。ここまで手を加えている作品は少ない。

【質問】伝えておきたいことやアピールポイントがあればお願いします。

作品の見どころについてはKevinに任せますが、ローカライズについてだけ。

今作はパブリッシャーの協力無しで開発・発売する単独インディー開発者のゲームでありながら、自力でローカライズチームを編成し6万ワード超の分量を7ヵ国語への翻訳+LQAを実現している、おそらく歴史的に見ても稀有なゲームです。パブリッシャー無しの単独開発者の場合、ローカライズはそもそもされないか、あるいは非公式の有志に頼るかのどちらかになることが8〜9割なので。

開発だけでなくローカライズにも高い熱量を注いだKevinには拍手を贈りたいですし、私もその熱意に応えられるようなローカライズができていればなにより嬉しいと思います。

【質問】本作をプレイされる方に向けてぜひメッセージを!

Stardew Valley』のようなのんびり農業シミュレーションが好きな方はもちろん、今作は幼い兄妹の心温まる物語に不吉なホラー要素を混ぜ合わせた新しいゲーム体験を楽しめる一作になっています。ぜひ、手にとってみてください。


基本情報 ハーベストアイランド:収穫島
開発 Yobob
販売 Yobob Games
配信日 2023年10月10日 / 日本語有り
定価 2,500円(Steam
Indie Freaks

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