中世から現代に舞台を移した、80年代テイストが輝くシリーズ最新作『Kingdom Eighties』プレイレポート&翻訳者インタビュー


朝比奈 / Asahina

Kingdom Eighties』は、80年代の世界観を舞台に子供たちが怪物相手に活躍する、タワーディフェンスとストラテジー要素を組み合わせた物語重視のアドベンチャーゲームだ。クロアチアのザグレブを拠点とするインディーゲーム開発スタジオ"Fury Studios"(Raw Furyの子会社)が開発を手掛けている。

Kingdom』シリーズのスピンオフとなる本作は、これまで中世風の王国や島々を舞台としてきた世界観からガラリと趣向を変え、美しいピクセルアートで表現された80年代のアメリカがイメージされた世界観となる。

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Kingdom Eighties is a short story-based standalone expansion set in the Kingdom universe. An epic singleplayer adventure of micro-strategy and base building. Defend your town against the mysterious Greed, and discover the secrets of your family lineage!

本作は、2023年6月26日にSteam版がリリースされたが日本語は未対応となっていた。それが今回、2023年10月17日の国内向けコンソールとモバイルでの配信開始に併せて、Steam版にも日本語サポートが実装された形だ。

本記事の執筆時点では、Steamストアページの対応言語リストがまだ更新されていないが、すでに日本語は実装されている状態となる。

本記事では、この日本語化されたSteam版のプレイレポートをお届けしよう。

また、本作の翻訳を担当された英日ゲーム翻訳者のライス由香氏へのインタビューと、ベースとなったデモ版の翻訳を手掛けた 架け橋ゲームズ ローカライゼーションマネージャーの桑原頼子氏よりコメントをいただいている。今作のユニークな翻訳の背景に迫ったものとなっているので、ぜひご覧いただきたい。

怪物の脅威からバッチグーに街を守れ!

本作の舞台となるのは、未知の怪物グリードの脅威にさらされた小さな街モナーク。プレイヤーは友達や近所の子供たちを率いるリーダーとして、家宝の「創造の王冠」をかぶり、街を守るために拠点を築いて戦っていく――というストーリーだ。

シリーズのプレイヤーにはお馴染みだが、あらためてゲームシステムを紹介すると、本作の主軸となるのはタワーディフェンス要素。拠点を広げて設備を整え、壁(バリケード)を築き、味方を配備して、夜になると襲撃してくるグリードを撃退していくのだ。

その際に必要となるのが「コイン」。今作では、子供たちに指示して周辺の木を伐採したり、狩りをしたり、他にも釣り堀やレモネードスタンドで仕事をしてもらったりすることで稼ぐことができる。

それをコストとして支払い、新たに子供たちを雇ったり、道具を制作したり、拠点の設備を建築/アップグレードしたりできるので、常にコインを稼いで使用するというサイクルとなっている。

▲拠点を防衛するだけではない。戦いに向かう決断も必要だ。

やがて設備が整い、拠点が大きく拡張された頃には、頼れる友達や子供たちに囲まれているはずだ。そうして入念な準備と十分な戦力が集まったら、目的のために攻めに転じて、グリードが湧き出てくる「異界の門」を破壊しながらステージの深部へと進んでいくのだ。

通常難易度までは比較的気楽にプレイできるが、高難易度に挑むと一筋縄では行かなくなってくる。何を優先して動いていくかを、戦略的に考えて行動していこう。

▲ついには怪物たちの領域まで踏み込むことも。

なお、今作はエピソード形式で、ステージ毎に設定された目的を達成することでクリアとなる。例えば、最初のエピソード1では「グリードに奪われたカヌーを取り戻す」ことが目的だ。それによって、新たなステージへと進みストーリーが展開していく形だ。

果たして、グリードたちの目的は何なのか。街から消えてしまった大人たちはどこにいったのか。その真相に迫っていこう。

心にグッとくる80年代テイスト

本作の特徴となるのはやはり、80年代のアメリカがイメージされた世界観だ。レトロなアートワーク、VHS味のあるアニメーション、シンセサウンド、特徴的な形状の自転車など。どれをとっても懐かしさを感じる雰囲気だ。

当時人気を博した、そして、現在でも愛される映画作品をオマージュしたネタもそこかしこに仕込まれており、発見すればちょっと素敵な気分にもなれるだろう。

馴染みのない方にとっては、Netflixで配信されているアメリカのSFホラーTVドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界(原題:Stranger Things)』をイメージしてもらうと伝わるかもしれない。

▲今作で初めて追加されたカットシーンはどれも印象的。

また、日本語版における特徴として、さまざまなシーンにおいて80年代を感じさせるユーモラスな翻訳表現が登場する。

それは例えば、「あたりきしゃりき」、「よろぴく」、「バッチグー」といった言い回し(死語)で、令和にあってはピンとこないかもしれないが、80年代を歩んだ世代には非常によく刺さる。

これが全編に渡って散りばめられており、よくぞここまでこだわったなというものだ。世代ではない方にも「そんな言葉を使っていたの?」と楽しんでもらえるものとなっているので、一見の価値ありというやつではないだろうか。

▲時代が下って口調もくだけた。「じゃ、あとはよろぴく。」

本作は、前項で触れた『Kingdom』シリーズにおける基本のゲームシステムを大きく変えることなく、より遊びやすく、新たな世界観で展開されている。どのようなテーマにあっても、『Kingdom』らしさが損なわれることはないのだ。

こうして新たな姿を見せてくれた、本シリーズの次なる姿にも今から大いに期待したい。

余談だが、Steamで販売されている「Kingdom Eighties: Art Book」には、登場キャラクターのパーソナルデータや、アートワークのメイキングなどに迫った内容が掲載されている。全69ページのフルカラーで楽しむことができるので、興味があればご一緒にいかがだろうか。

翻訳者インタビュー

ここからは、本作の翻訳を担当された英日ゲーム翻訳者のライス由香氏へのインタビュー内容と、本作をサポートする架け橋ゲームズ ローカライゼーションマネージャーの桑原頼子氏よりいただいたコメントをご紹介しよう。

と言うのも、本作における80年代テイストへのこだわりや、テキスト全体を占める絶妙にチャラくてゆるいユニークな表現の元となったデモ版は桑原氏が翻訳。製品版の翻訳にあたってそれを受け継ぎ、磨き上げる形でライス氏が完成させているからだ。

ライス氏からは「日本語版の産みの母が桑原さん、育ての母が私という位置づけだと理解しております。」とのこと。また、桑原氏からは「製品版をライスさんに引き継いでいただけたことで、とっても素敵な作品になったと感謝しています。」と伺っている。

普段、表に出ることのない翻訳の裏側に迫る興味深い内容となっているので、ご覧いただければ幸いだ。

英日ゲーム翻訳者
ライス由香 氏

【質問】自己紹介をお願いします。

本作の日本語翻訳を担当させていただいた、ライス由香と申します。翻訳歴は今年で12年目で、これまでに100作を超えるゲームプロジェクトに参加させていただきました。

ほとんどの作品は契約上言及できないのですが、現在言及許可をいただいている作品には、『Rogue Legacy 2』、『Mighty Quest: Rogue Palace』、『Hindsight』、『Save me Mr Tako: Definitive Edition』、『Beyond a Steel Sky』などがあります。

【質問】本作のテキストの端々に見られる80年代テイストや、桑原さん曰く「絶妙にチャラくてゆるい」感じがとてもユニークかつ印象的で、主人公たちは結構大変な状況なのに、ユーモラスで思わず笑ってしまう面白さがありました。やはり、これらが特にこだわられたポイントでしょうか?

はい、そうです!

こちらの作品は私が一から翻訳したわけではなく、桑原さんがデモ版(エピソード2の一部)の途中まですでに訳しておられ、私が最初にファイルを拝見した際にはすでに「絶妙にチャラくてゆるい」路線が確立されていました。

ユニークで面白い難易度名も、実は名付け親は桑原さんです(笑)

実際、本作品の主人公たちはかなりタフですので、ユーモラスな雰囲気は本作品にピッタリだと思っています。そのため、その雰囲気を壊さないよう気をつけつつ、さらにプレイヤーの方々に80年代の日本語を楽しんでいただくべく当時の死語をたくさん盛り込みました。

【質問】翻訳にあたり重視した点や、注意された点はありますか?

私が引き継いだ際には路線がほぼ確立されていたとはいえ、当初はこれまでの『Kingdom』シリーズファンの方々を失望させることなく本作も楽しんでいただくにはどうしたらいいかという疑問点もありました。

特に悩んだ点の一つが、女王の幽霊の話し方です。前作までは、例えば「Stand here」は日本語では「ここに立つのだ」となっており、基本的に「~のだ」や「~せよ」と威厳のある話し方をしています。

そこで悩んでいたところ、桑原さんが架け橋ゲームズの社員さんたちにアンケートを取ってくださり、開発さまのご回答と社員さんたちのご回答を参考にして現在のような方向に決定しました。

ここまで80年代にこだわり抜いて制作されたゲームですので、翻訳者の役割は、開発側の意図を汲んでそれに合った日本語にすることですよね。そこで本作では、先ほどの例の「Stand here」は「ここに立ってちょ」とし、他にも「あとはよろぴく」など、80年代を意識した軽い話し方にしています。

【質問】伝えておきたいことや、アピールポイントがあればお願いします。

ここまで精細かつ美しいピクセルアートはなかなかないと思うので、各レベルでぜひともそれらを堪能していただきたいです。

また、ゲームの初めから終わりまであちこちに80年代の要素が散りばめられているほか、いくつかの実績や、サバイバル・オリジナルテープのゲームオーバー時に表示されるメッセージにもちゃんと元ネタがあるため、それらもぜひ突き止めていただければと思います。

【質問】本作をプレイされる方に向けてぜひメッセージをお願いします!

本作は『Kingdom』史上初めてカットシーンも導入され、ストーリー性のある楽しい作品になっています。『Kingdom』の世界が80年代で展開されたらどうなるのか、数々の80年代の懐かしコンテンツと併せて楽しんでいただけますと幸いです。

ありがとうございます m(* .ˬ.)m

架け橋ゲームズ
ローカライゼーションマネージャー
桑原頼子 氏

2022年の夏に京都で開催されたBitSummitに展示したデモ版を、私が担当しました。

ご存じのとおり、もともと『Kingdom』シリーズはテキスト量が少なく、ビジュアルで見せるようなゲームです。Raw Furyはゲームをアートだとしている会社なので、『Kingdom』についても強いこだわりがあり、UIもできるだけテキストを使わず、非常に少ない情報量でユーザーにインタラクトしています。

リリースされた『Kingdom Eighties』には、カットシーンがあったり、キャラクターがしゃべるセリフがあったり、いつもの綺麗なピクセルのゲーム画面以外からも80年代を感じられる要素が入っていますが、当時のデモ版は、ゲームプレイ部分しか用意されていませんでした。

80年代を舞台に開発している」、「硬い言葉は使わないようにしてくれると嬉しい」くらいのコメントだけで、今回のシリーズはストーリーがあるらしい、というのも、あとから聞いたくらいです(笑)

なので、少ない情報量で、今までのファンの方に「あれ? こんどの『Kingdom』は、今までとちょっと違うな……?」と思っていただくにはどうしたらいいかを考えました。

それで、シリーズ通して流用されていた最初の難易度選択のテキストを、本作だけ別のストリングとして実装していただけないか依頼し、「よゆー」「まぁふつう」「わりとムズい」「ガチでしんどい」という風に翻訳し、最初からくだけた感じを出してみたことから、チャラゆるローカライズが始まりました(笑)

デモ版は期間限定だったこともあり、チュートリアルの女王様のセリフを「カモーン」とかにして全力で楽しんで翻訳した記憶がございます(笑)。リリース版ではもともとのストリングが削除されているので、今となっては、もはや幻のセリフですね。

実際の製品版をライスさんにお渡しした際には、どういった意図で開発側が作っているかをお伝えしつつ、デモ版の時に使っていたファイルを共有し、方向性で困った時にはご相談ください~という感じで引継ぎをしました。

ちなみに、当時ライスさんにお伝えしたメッセージはこんな感じです。

今までとガラッと雰囲気が違ったので、過去作のストリングをそのまま使うと違和感がある箇所があり、80年代の若者が使うような言葉をあえて入れて、楽しい雰囲気にしています(笑)
 
(難易度設定とか、そのあたりもめちゃめちゃくだけた感じにしましたw)
 
ブースに来られた方はそれに笑ってくださっていたので、ライスさん側でも、同じくらい楽しい感じにしちゃって大丈夫です^^

今読み返してみると、この依頼もなんか軽いですよねw


基本情報 Kingdom Eighties
開発 Fury Studios
販売 Raw Fury
配信日 2023年6月26日
2023年10月17日 / 日本語サポート
定価 1,400円(Steam
1,400円(Nintendo Switch
1,430円(PlayStation 5
1,400円(Xbox Series X/S
700円(iOS
720円(Android

© Copyright 2023 Fury Studios AB. Published by Raw Fury AB. All Rights Reserved.

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