元Coffee Stain StudiosコミュニティマネージャーのJace Varlet氏と、Odencat代表のDaigo氏の対談企画が実現


朝比奈 / Asahina

2024年1月20日20:00より、昨年まで"Coffee Stain Studios(※1)"にてコミュニティマネージャーを務め、現在は独立して個人ゲーム開発者として活動されているJace Varlet氏と、"Odencat(※2)"のCEOを務めるDaigo氏の対談企画が行われた。

約2時間におよぶ対談はJace氏のTwitchチャンネルにて英語で行われたが、その模様をBitSummitやINDIE Live ExpoといったインディーゲームイベントのMCや、配信者として知られるJ-mon氏による同時視聴/同時通訳にて届けられた形だ。

なお、今回の対談はJ-mon氏が両者を引き合わせたことから実現したとのこと。配信アーカイブは「こちら」から視聴可能だが、Twitchの仕様上、一定期間で消えてしまうので気になる方は早めにチェックしよう。

※1:"Coffee Stain Studios"はスウェーデンを拠点とする開発スタジオ。Steamにて2014年4月2日にリリースされた荒ぶるヤギを操る『Goat Simulator』で大きな注目を集め、最近では2020年6月9日より早期アクセスで開発継続中の工場建設シム『Satisfactory』を手掛けていることで知られる。

※2:"Odencat"は日本を拠点とするインディーゲーム開発スタジオ。ナラティブでエモーショナルな作風が特徴で、『くまのレストラン』や『メグとばけもの』などを開発している。

Jace氏の独立

お互いの自己紹介を経て、最初に話題となったのは、Coffee Stain Studiosから独立したJace氏のこと。昔からJRPGに憧れ、クリエイターとして最初に志した「ゲームを作る」ために同社を離れたそう。チームで良いゲームも作ったが、ある日やりたいことをやろうと決めたのだという。

インディーゲーム開発はロンリーでクレイジーな仕事。パブリッシャーがつかなければ頼れるのは自分の力だけ。当面の生活資金はあるので「どうにかなるだろうとは思っている」とのことで、コミュニティとの繋がりも信頼している。

一方で、アーティストではない自身にはアート面が不足している悩みはあるが、現在はゲームシステムを洗練させることを優先しているとのこと。ちなみに、開発中のゲームがどんなものかはネタバレになってしまうので秘密だそうだ。

この話を受けてDaigo氏は、最初から美しいゲームを目指さないほうが良いと学んだ経験談を語った。最初にコアな部分を制作してグラフィックは後に回す。そのほうがアーティストにイメージも伝わりやすい。

1人で何でもマルチにできることは強みでもあるが、最近は複数の専門家でチームで進めたほうが良いのでは、とも考えているとのことだった。

Odencatの成り立ち

続いて話題は、Odencatの成り立ちについて。もともとはDaigo氏が個人で制作した『償いの時計』を、オープンソースのゲームエンジン「Ebitengine」を使ってモバイル版をリリースしたことに始まり、その後の数作を経て『くまのレストラン』で大きな成功を果たした経緯が語られた。

同ゲームエンジンを継続的に採用し、最適化していくことで将来的な開発費を抑えられ、過去に制作したゲームにもあらためて使うことができるのがメリットだという。

Ebitengine(えびてんじん)は、星一氏が開発を手掛けるオープンソースの2Dゲームエンジン。Odencat作品の他、Laura Shigihara(鴫原ローラ)氏が手掛けた『RAKUEN』のNintendo Switch版への移植などにも使用されている。

ナラティブな作風を特徴とするOdencat作品において、「文化的な背景は海外に持っていくときに調整するのか?」というJace氏の質問については、それはローカライズの分野であると回答。ローカライゼーションしやすいシステム構築は必要で、例えばテキストをグラフィックに入れ込むようなことはやらないようにしているとのこと。

なお、ゲーム内にボイスを入れることへの考えについては、昔は不要と考えていたが今はわからないそうだ。声優にはクオリティの高さがあり、AIによる音声合成には費用面や修正時の手軽さがあるとしながら、ボイスが入ることでプレイヤーの想像力が狭まる(固定される)かもしれないので、採用には慎重な姿勢のようだ。

※2Dと3D作品では性質も異なるためか、3Dならばまた話は違ってくるということも付け加えられていた。

コミュニティマネジメント

Jace氏からDaigo氏に対して、「コミュニティマネジメントを行っているか?」との話題が振られたシーンがあった。

OdencatではXやDiscord、メールマガジン(ニュースレター)を運用しているが、配信活動はしておらず、あまり上手く展開できていないとのこと。また、同社の作品はストーリーベースであるため、ユーザー体験を奪うことを避けるために、制作中の様子はシェアすることが難しいというのが答えだった。

その考えに理解は示しつつも、「制作中のゲームではなくとも、Daigo氏の話を聞きたいユーザーは多いのでは?」とし、コミュニティとの繋がりは何か問題が起こった際に、より親身になって支えてくれるはずだというのがJace氏の考えだ。

大事なのはマーケティングとコミュニティマネジメントは別であり、好きなことや楽しいと思うこととは分けて考えなければいけない。もしDaigo氏がTwitchなどで配信活動を行うならば、楽しんでやってほしいということだった。

長年コミュニティマネージャーを務め、配信者としても活動されているJace氏らしい視点のアドバイスだろう。

マネタイズの考え方

長期開発にはリスクがあり、マネタイズも考えないといけないので、1~2年でまず1本完成させたほうが良い、というのがDaigo氏の意見。

現在は自分の作りたいゲームを好きに作っているわけだが、パブリッシャーと組むことは規制や制約が生まれるリスクもあり、人からアドバイスを受け続けるのもどうかと思っているというJace氏から、それについてどう思うかという質問が投げかけられた。

Odencatはセルフパブリッシングを基本としている。パッケージ頒布の際はパブリッシャーとパートナーシップを組んだが、それはノウハウがなかったことに起因する。資金があるうちは開発は自分でやりたいが、やはり全体の運営は大変かもという答え。

「ゲームの価格はどう決めている?」という質問に対しては、例えば『OMORI』や『Undertale』を参考にするなどリサーチはしていて、Odencatでは15ドルが目安。20ドル以上はある種の付加価値が無いといけないと考えているとのことだ。

Jace氏としても、短くとも濃密な体験ができるものであったり、それこそ『Satisfactory』のように長く楽しめるものであったりと、そのどちらも良いことだが価格=時間ではないという点で同意を示されていた。

開発環境について

Jace氏の開発規模に対する質問に対しては、Odencatは全員がフルタイムというわけではないが10人ほどで、昔から継続して働いてきているのはその内5人ぐらいという答えがあった。

CEOとしてプレッシャーを感じることはあり、作品が出ても出なくとも従業員に給料を払わなければならないという責任もある。そのためにも新しいゲームは常に作り続けなければならず、短いスパンで行えることが理想としている。

『メグとばけもの』は3年ぐらいかかっており、すごいゲームができたという自負はあるが、開発に時間をかけすぎた感覚もあるようだ。1年で2タイトルを並行して制作できた理想的なケースもあり、『くまのレストラン』と『フィッシング・パラダイス』は前者が8ヶ月、後者は10ヶ月程度だった。

責任がなかった頃は、寝ても覚めてもプログラミングをしていた。インディー開発は犠牲も多く、人と話すこともなく孤独で、友人と会っても会話ができなくなっていた時期もあった。だが、今はOdencatというコミュニティがあることで助かっているという。

ちなみに、Jace氏はまさに個人という状態で、主に自宅で開発を進めていて物理的に人と会う機会は少ないが、配信も含めてコミュニティとの繋がりがあるので大丈夫とのこと。

開発の良いところも辛いところも見せることができ、モチベーションを保つことができる作業配信(コワーキングストリームと表現していた)なども良いものだ、と話していたのはやはり配信者らしいところだろう。

最後に

対談の終わりにJace氏から「最後に何かアドバイスは?」と問われたDaigo氏は「ゲーム開発は走り続けることだから、とにかく健康で。」と返されていたのが印象的だった。

独立して1人で走り始めたJace氏にとって、大切な一言になるだろうと感じたからだ。

対談の全編はぜひアーカイブから

以上が対談の模様となるが、今回はあらかじめ話題のテーマが決まっていたものではなく、お互いに会話を進める中で自然と出てきた話題を語り合っていた。

本稿はその中でも印象的だった話題をかいつまんで要約したもので、約2時間にわたる内容の細部までは紹介しきれていない。また、英語から翻訳されたものを聞き取っているため、ニュアンスが伝わらない部分もあるかもしれない。

対談の全編は実際に配信アーカイブからご覧いただきたいが、冒頭でもお伝えしたようにTwitchはその仕様上、一定期間でアーカイブが削除され視聴できなくなってしまう。

J-mon氏の尽力もあってその内容は大変興味深いものとなっているので、ぜひご覧になってみてはいかがだろうか。

Twitch
Twitch is the world’s leading video platform and community for gamers.
▲JA/EN 元Satisfactoryコミュニティーマネージャー現インディー開発者 @jembawls と Odencat Daigo対談同時通訳放送 - Twitch

追記更新:2024/1/30

2024年1月30日、Jace Varlet氏のYouTubeチャンネルに今回のTwitchで行われた対談動画がアップされた。

こちらはJace氏自身のTwitchチャンネルで配信されたもので、J-mon氏が同時通訳したものではないため英語のみとなるが、こちらはTwitchと異なりアーカイブは残り続けるので視聴期間を気にせずとも大丈夫だ。

▲こちらは英語のみ。同時通訳はJ-mon氏のTwitchから視聴してほしい。
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