本稿は事前にレビューキーをご提供いただき、執筆しています。
『プリコラージュ -IDOLIZED-』は、失踪したKPOPアイドル「セナ」の情報を求めて、SNSの投稿を探索(ネットストーキング)して真実を明らかにする謎解きアドベンチャーゲーム。画像の気になる箇所をクリックし、リンクをたどって新たな情報を見つけていく。
本作の開発は、個人でもゲームを制作しているHIJIKI氏がディレクターを務めた。筆者が本作に注目していたポイントは、KPOPアイドルが登場し、韓国発のダウンロード販売プラットフォーム「STOVE」でも体験版を配信している点だ。発売後に韓国市場でどのような反応があるかを見てみたい。
本作のセナはKPOPアイドルグループに所属しているが、出身地は東京都で、日本人メンバーのようだ。物語の舞台も東京か、その周辺である。セナがアイドルオーディション番組で激しい競争を勝ち抜いてデビューしたというのがKPOPらしいエピソードだ。
この記事では、チュートリアル的なガイドありの序盤をご紹介してから、ネットストーキングという題材について少し掘り下げてみたい。ネタバレで楽しみを損なわないように配慮して書いたつもりだが、事前に情報を見ずにプレイしたい方は、結末まで見た後にこの記事を読んでいただければ幸いだ。

SNSを隅々まで見てアイドルの情報を探そう
ゲームを開始すると、「セナが失踪 連絡つかず」というニュースが飛び込んでくる。画像の下部にあるセナの名前に大きく「CLICK!」とガイドが出ており、この先しばらくはどこをクリックすればよいか、分かりやすく誘導してくれる。
進めていくと、架空のSNS「Twitgram」でセナのアカウントを閲覧できる。ゲームを進めていく助けとなる「TO DOリスト」を確認することもできて、序盤は「アイドルの名前」「所属グループ」「出演した番組」といった基本情報のほか、「通う学校」のような個人情報まで特定しなければならないということがわかる。


このゲームには、プレイヤーのやっている行為は、個人情報を特定する「ネットストーキング」の一種だということを自覚させるようなシーンが随所にある。セナが「自撮り」写真を投稿した、下記の画像。どこを見れば個人情報を特定できそうか、思いつくだろうか。

意図せず映り込んでしまっているものが、住所などを特定する手がかりになるかもしれない。芸能人に限らず、ネット上に投稿した画像のせいで「身バレ」する危険性については世間一般に知られるようになってきているとは思うが、あらためてその危険性にヒヤヒヤさせられる思いを感じられる。
それだけではない。探索(ストーキング)をする側になってみて初めて味わう罪悪感や背徳感も、本作ならではの体験だ。自分のやっている行為が恐ろしい結果を生むのではないかと疑問を感じながら、真実の解明に挑んでいただきたい。

パスワードや証拠画像を見つけよう
基本的には画像、リンク、検索バーなどをクリックして進んでいくため、このジャンルのゲームを未経験でも簡単に遊べそうなぐらいスムーズなゲームプレイだ。謎解きの難易度は少しずつ上がるけれども、緩やかなカーブで上がっていくと感じた。
単にクリックしていくだけではなく、謎解きのバリエーションが増えていくということもご紹介しておこう。例えば、鍵のかかった投稿は、パスワードの数字や言葉をキーボードで入力すると閲覧できるようになる。その他にも、今までの画像を見直して、とあることの「証拠」になる部分を複数選ぶようなシーンもあった。
もし間違えたとしてもペナルティなどはなく、ヒントも出てくることから、本作は行き詰ることなく最後まで楽しめるように配慮されているようだ。しかも、比較的短いプレイ時間で結末を見ることができる短編には、人におすすめしやすく感想が広まりやすいという良さもあるように思う。

露悪的だが悪質な内容ではないと感じた
ゲームを開始すると、「この作品はフィクションです」「このゲームで得た知識を(中略)悪用しないでください」というメッセージが出る。ストアページの説明文にも調査(ストーキング)と書かれており、PVの字幕では「調査(ストーカー)せよ ネットストーキング体感ゲーム」という触れ込みだ。
好意的に解釈すれば、ネットストーキングの怖さを感じられるゲームであり、注意喚起、啓発の側面も持っている。だが、ネットストーキングの手法が描かれているゲームだということは確かだ。
そして、ストアぺージのお知らせ「ゲームの配信について」に告知されているとおり、規約を守れば動画投稿や生放送配信が可能だ。すると、動画配信者と視聴者の双方がネットストーキングの怖さを感じ、「絶対に真似をしちゃいけない」と確認をしながら本作がプレイされることになることも少なくないだろう。

記事を書いて情報を広めようとしている責任上、本作を実際に結末までプレイして、悪質な内容かどうかは十分に考えたということをご説明させていただきたい。「完全に無害」と言い切れるわけではないこともきちんと付け加えておく。
また、本作の結末はマルチエンディングとなっており、その中にはバッドエンド的な展開も含まれる。プレイヤーが関与したせいでアイドルが危険にさらされ、ショッキングな結果を招いてしまうこともある。刺激が強すぎないように抑えられた描写だと感じたが、見た人の感じ方にもよるので、ストーキングによる被害を見ると気分が悪くなってしまうという場合は休憩をおすすめする。特に、動画配信者の方々は、自分が被害に遭うことを想像すると恐怖感が強まるかもしれない。プレイするなら、体調が良くて楽しく遊べるときに。
ただ、筆者としては、ネットストーキングのようなセンシティブな題材を扱いつつも、倫理的な面に配慮してバランスをとりながらゲームを作る試みはあってもいいし、肯定的にとらえたいと考えている。そもそも、犯罪事件を題材にした推理・捜査ものはどれも犯罪の手法を広めかねないものであり、常に倫理観が問われている。

結末について少し触れることになるが、結局のところ、本作は「プレイヤー=主人公」の活躍によって事件を解決することがメインとなっているので、真相を明らかにすればスッキリとした気分で終えられる作りになっている。そして、それには多くの時間がかからないところも短編であることの強みだろう。
ちなみに、筆者は「推し」の動画配信者の方に「プリコラージュの実況が見たいです!」とリクエストする度胸はないが、推しが実況したらドキドキしながら見に行ってしまいそうだ。いったいこの感情は何なのだろう。配信者・視聴者の双方がどんなリアクションをするかを「既プレイ勢」として見に行く楽しみもあるのだ。
本作がゲーム実況・配信界隈にどう受け取られるかということも密かな注目ポイントであり、気になった方には、ぜひ先回りしてプレイしておくことをおすすめしたい。

基本情報 | プリコラージュ -IDOLIZED- |
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開発 | HIJIKI |
販売 | Annulus |
配信日 | 2024年2月19日 / 日本語有り |
定価 | 800円(Steam) |