物語もモンスターも存在しない。The Backroomsなどから着想を得た、フォトリ アルな実験的探索ADV『POOLS』プレイレポート
2024.04.27
本稿は事前にレビューキーをご提供いただき、執筆しています。
『POOLS』は、インターネットミームの「Liminal Spaces(リミナルスペース)」と「The Backrooms(バックルーム)」からインスピレーションを受けて制作された、実験的な探索型ウォーキングシュミレーターだ。フィンランドの中央スオミ県を拠点とするゲーム開発スタジオ"Tensori"が手掛ける。
プレイヤーが迷い込んだのは、白いセラミックタイルに囲まれたプールのある空間。探索を進めるうちに構造は変化し、ときに広く明るく、ときに暗く狭く圧迫感を与える。典型的なストーリー要素はなく、解決すべき目的もほとんどなく、プレイヤーを脅かす危険な存在も登場しない。
本作はそんな、まさに実験的と言える作品だ。
その探索の先に待つものとは?
本作のゲームシステムは、白いタイルで囲まれたプール(水泳用ではなく、水をたたえた空間全般の意味)のある空間を探索していくこと。全部で6つのチャプターで構成されていて、わかりやすいものとは限らないが、ある種の「終点」に到達することで次のチャプターへと進むことができる。
ただ先述のとおり、本作にはストーリー性があるわけではなく、明確なクリア目標があるわけでもない。先に待つ光景をプレイヤーは予測することができず、手探りで進んでいくというノンリニアな構成となっている。作中にはテキストの類も一切登場しないため、最初から最後までプレイヤーの解釈の余地が大きい作品だ。
プレイヤーが歩む空間はほとんどが水没しているか、傍らにプールが存在している。広く開放感のあるフロアがあるかと思えば、押しつぶされそうなほどに狭い通路が連続していたり、無意味に思える柱や手すり、階段が立ち並ぶ。
似た光景が続くのでまるで迷路の中に放り込まれたような気分になるが、ときに同じ場所に繋がることもあるものの、ループしているわけではなくどの部屋も少しずつ違った構造となっている。
ウォーキングシミュレーターとは、その舞台となる場所を没入感をもって体感させてくれるものだが、本作ではUnityによって形作られたフォトリアルなアートワークと、水場のかき分け音や反響する靴音が、強烈な孤独感を味わせてくれる。
本作にプレイヤーを襲うモンスターは登場せず、ほとんどのシーンは明るく、不注意で深みに足を取られて溺れるようなことさえしなければ、危険らしい危険もない。それでも、勝手にいないものを想像して恐怖を覚えてしまうのが人間なのかもしれない。
念のためにお伝えしておくが、あまり暗いシチュエーションは出てこないものの、幅の狭い通路や天井の低い空間が多数登場する。特に閉所恐怖症の方はよくご理解の上でプレイしてほしい。
インターネットミームからのインスピレーション
先述のとおり、本作はインターネットミームの「Liminal Spaces(リミナルスペース)」と「The Backrooms(バックルーム)」からインスピレーションを受けており、ある行方不明者が遺した記録映像のように見せる「Found footage(ファウンド・フッテージ)」と呼ばれる映像手法をベースに制作されている。
特にバックルームにおいて"The Poolrooms(プールルーム)"と呼ばれる「Level 37: "Sublimity"」から強く想起されたものであることは、ご存知の方にはひと目でそれとわかるだろう。
バックルームとは、簡潔に言えば多層構造からなる異世界のようなもので、そうした共通する世界設定をベースに複数の執筆者が創作するシェアード・ワールドの一種だ。
インターネット上には巨大なユーザーコミュニティが形成されており、同様のものとしてはより長い歴史を持つ「SCP Foundation(SCP財団)」などが知られている。
CC BY-SAライセンスというものに基づいて二次利用が認められているため、その世界観をテーマとしたさまざまなゲーム作品が生み出されており、本作もそうしたものに数えられる。
元となったシナリオを読むだけでなく、その解説や考察に触れることも楽しみの1つとなっているため、これまでご存知なかった方も本作をきっかけに、その世界に迫ってみてはいかがだろうか。
基本情報 | POOLS |
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開発 | Tensori |
販売 | Tensori |
配信日 | 2024年4月26日 / 日本語有り |
定価 | 1,250円(Steam) |