「A MAZE./Berlin」は、世界中から実験的なゲーム、VRクリエイター、デジタルアーティスト、ミュージシャンなどの表現者たちを招き、ドイツのベルリンで開催される国際的なイベント。13回目となる今回は2024年5月8日~11日まで講演やワークショップなどのさまざまなプログラムがあり、最終日にはアワードの授賞式が行われた。
今年の「A MAZE. Awards」には60の国々から283タイトルがエントリーしたという(エントリー作品一覧)。すでにリリースされて日本語にも対応しているタイトルを挙げると、『American Arcadia』『Spiritfall』『パスパルトゥー2:あるアーティストのキセキ』『Mediterranea Inferno』『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』『Botany Manor』などがある。
Steamのイベント特設ページを見れば、今までアワードにノミネートされた作品が並び、セールに参加中のタイトルもチェックできるようになっていて便利だ。
韓国の個人ゲーム制作者の作品が大賞を受賞
このアワードには6つのカテゴリーがあり、韓国の個人ゲーム制作者Somi氏の『未解決事件は終わらせないといけないから』が大賞にあたる「Most Amazing Award」を見事受賞した。
筆者は本作の日本語翻訳に参加し、発売当時に日本向けプレスリリースの配信をサポートさせていただいた。担当した部分がアワードの審査に直接の関係がないとしても、ファンの一人として、Somi氏の作品が国際的なイベントで最高の評価を受けて嬉しい限りだ。Somi氏のXアカウントを見ると、会場に着いたときの感動が伝わってきた。初日も二日目もこの祭典を楽しんでおられたようだ。
韓国のクリエイターが制作したゲームの海外での受賞歴といえば、2024年4月に『デイヴ・ザ・ダイバー』が 英国アカデミー賞ゲーム部門でゲームデザイン賞を受賞したが、同作は大手企業のサポートを受けつつ開発されたタイトルだった。
『未解決事件は終わらせないといけないから』のように、作曲以外はすべて一人で制作したゲームが海外のアワードで大賞を受賞するのは、前例を聞いたことがないほど画期的なこと。しかも、革新性などを評価基準として、「今までに歩んだことのない道を示してくれた傑作」に与えられる賞である。
今回の審査員の評にも、多くのゲームが最先端のグラフィックスやリソースを注ぎ込むことに集中する中で、30年前にもありそうで無かったコンセプトを打ち出した、その聡明さが称賛されている。
『未解決事件は終わらせないといけないから』とは
本作をまだプレイしていない方々のために、ゲーム内容を少し紹介させていただこう。
『未解決事件は終わらせないといけないから』は、定年を迎えて12年経った元刑事の「清崎蒼」が、12年前に担当した児童失踪事件の記憶を断片的に思い出し、ジグソーパズルのピースのように組み替えて、当時の捜査の経緯を復元していく推理アドベンチャーゲームである。
行方不明となった児童の家族や目撃者など、事件の関係者から聞いた内容そのものは正確に記憶されているが、発言者や順序が入り乱れてしまっていることで、関係者の誰もが怪しいと思えてくる。プレイヤーは、発言の内容や人物の関係性から推測して、正しい発言者に変更し、時系列順に並び替えることで真相に近づいていく。
TweetDeck(現在はX Pro)のように発言者を分類表示し、それぞれの列に発言をぶら下げた形のUIデザインが、このゲームの仕組みを体現している。見慣れたものでありながら、今までにないプレイ感覚を体験できるのが興味深い。
こうして、ストーリーの内容と独創的なゲームシステムがマッチしていることが高評価につながっていると言えそうだ。「ネタバレを見てしまう前に自分でプレイしたほうがいい」ともよく言われる作品なので、ご興味のある方には、あまり情報を入れずにプレイすることをおすすめしたい。
そして、本作の受賞をきっかけに「A MAZE. awards」を知った方々には、歴代の受賞作やエントリー作品にも関心を広げていただければ嬉しい。
日本語に対応していないゲームや、アート色の強いゲームは日本のアニメ・ゲーム文化から見ると異質なものも少なくないが、「A MAZE./Berlin」は、国際色豊かで多様性をリスペクトしているイベントのように感じられる。同じような精神で、私たちも「A MAZE./Berlin」が見せてくれる新鮮な世界に触れることができるのではないだろうか。
基本情報 | 未解決事件は終わらせないといけないから |
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開発 | Somi |
販売 | Somi |
配信日 | 2024年1月18日 / 日本語有り |
定価 | 800円(Steam ) |