幾何学模様に彩られた夢の世界を探索するウォーキングシミュレーター『NIDANA』をライター2人の視点による先行プレイレポ

レイリー

2025/07/28

夢の世界を探索する一人称のウォーキングシミュレーターゲーム『NIDANA』が、2025年7月28日にPC(Steam)にて正式リリースを迎えた。PLAYISMがパブリッシャーを務める本作は、lvl374氏の個人開発によって手がけられており、同氏がXにて公開しているアート作品を彷彿とさせる世界観がゲーム内に落とし込まれている。

プレイヤーは、とある女性の夢の中とされる場所を歩き回っていく。目的やゴールといったものはゲーム内で一切明示されず、幾何学模様で描かれた白黒の世界を探索していく形だ。

ゲーム内テキストも存在しない不可思議な世界を歩き回るという作品の性質上、プレイヤーの受け取り方によって、本作へ抱く感情や印象は大きく異なってくるだろう。

今回は、本作を先行プレイする機会を頂いた2名のライターが、それぞれの視点で感じたことをご紹介していく。抽象的な本作の雰囲気をつかむ上で一助となれば幸いだ。

Steam:NIDANA
「彼女」は夢を見続ける。 夢の一端を探索する一人称ドリームシミュレーター。

白昼夢のようなゲーム体験 / レイリー

ストア上では"「彼女」の夢の世界を探索する"と説明されてはいるものの、ゲームを起動すると本当に何も説明がない。いわゆるポーズメニューやオプションでのテキスト表記はさすがに存在しているが、それ以外のテキストはゲーム内に登場しない。必然的にプレイヤー自身が、この世界はなんなのか、これからどうすればいいのかを考える必要があるつくりとなっている。

たとえば、謎の人物が奥にいるので追いかけてみると先へ進めたり、明らかに謎めいた浮遊物を追いかけていくと次のエリアが開かれたりする。やみくもに歩き回るというよりは、直感とひらめきを試されているような感覚だった。

筆者は一人でプレイしていたのだが、わずかなヒントのみを頼りに歩き回っていくのは、たとえるなら自己問答のようで、ときには暗中模索で辛い場面があったのも確かだ。

▲探索中、下へ降りていく場面が多かった点も印象的。「彼女」の深層意識へと近づいていく感覚に合わせているのだろうか

また、本作は歩き回って進んでいくだけではなく、絵合わせパズルのようなミニゲームをこなすことで先へ進む場面もある。いずれも一度限りのギミックで再登場することはないのだが、一度限りだからこそ「あれはなんだったんだ…?」と妙に印象に残るため、目が覚めたときに夢の内容を反芻するときの感覚に近い。

歩き回れども答えは出ず、雲をつかむようにとらえどころのない2時間ほどのプレイ体験は、さながら白昼夢を見ているようだった。「夢の世界を探索する」という主題からすれば、これ以上ない表現方法だろう。

幾何学模様に彩られた不可思議な世界

プレイヤーの目の前に広がる景色は、どこまでも不思議な構造物が並ぶモノトーンの世界。アートワークの中にそのまま入ったような景色は、「夢の一端」と説明されるように掴みどころのない世界だと感じた。

構造物や背景など、ほとんどが幾何学模様で表現されているが、そのモチーフはどこか高層ビルを思わせるものに見えたり、宇宙そのものを思わせるものに見えたりと、探索するうちにさまざまなものへ変容していく。その景色が何を意味しているのかの説明はなく、最後まで明かされることもない。全てはプレイヤーの印象に委ねられる形となる。

現代的な建造物に見えるモチーフがあったことや、ときおりタイピング音らしきものが聞こえるところからも、筆者は現代を生きる人物の夢なのかと考えたが、この考えが正しいとする根拠もない。考えれば考えるほど、この世界の深淵に落ちてしまうような気さえした。

一方で、lvl374氏のアートワークが前面に表現されているという本作が開発された前提に立てば、印象はまた変わってくる。「幾何学模様」と「モノトーン」という2つの要素は崩さずに、ゲームに落とし込んで表現しきった本作の芸術性は非常に高い。

絵画も描き手と受け手双方の感性があって初めて完成すると言われるように、本作も受け手の感じ方によって骨格が見えてくる「絵画」のような作品なのだろう。


考え続けてしまう迷宮のようなゲーム / しわしわ

概要についてはレイリー氏が紹介したとおり。ここからはしわしわが担当し、主観と考察多めのプレイレポをお届けしよう。まず、『NIDANA』には「テーマや描写に一貫性を見出せない」からこそ「答えを求めて考え続けてしまう」特徴があると筆者は感じた。

それでも、「彼女」は夢を見続ける」――というからには、「彼女」が夢を見続けていること自体、「彼女」を含む誰かしらにとって良くない状況なのかもしれない。そんな予感とともにゲームを起動したが、「彼女」の見る夢が示すものどころか、「彼女」の置かれた状況や精神状態すらも、ゲーム内の描写から推測することは非常に難しかった。
ゲーム内で何度も出会うことになる「彼女」の様子に一貫性はなく、ロケーションも迷路のように入り組んだ建物内だったり宇宙空間じみた場所だったりと、徹底してテーマが隠されているようにも感じられる。

けれども、一見繋がらないように見える点が、どこかで繋がるのではないか…答えが提示されないからこそもどかしさを感じ、ついつい考えさせられてしまう。まさしく白昼夢のような体験だった。

だからこそ人と分かち合う

本作は明確な説明も答えもなく、徹底的に「一貫したテーマや思想を持たせないつくり」だからこそ、プレイヤーそれぞれが素直な感性のままに物語を感じ取ることができるゲームであるように思う。

ライター間で感想や疑問を共有する機会があり、多くの主観・着眼点の違いに触れることができた。考察というと、いかに「描かれていることを丁寧に汲み取り理解できたか」に重きが置かれがちだが、『NIDANA』は解釈の余地が非常に広く、完全にプレイヤーの主観に委ねられている。正解も不正解もないからこそ、感じたことや考えたことを発信するハードルも低くなり、他者の気付きからさらに自身の考えを深めることの面白さを改めて感じられた。

社会を離れて深層心理の奥深くへ潜っていく自己対話のような構造にも思える本作だが、その体験について誰かと話して分かち合うことで、人と対話することや繋がりを持つことに価値を見つけられる――制作者の意図とは異なるかもしれないが、そんな魅力を持った作品であると筆者は感じた。奇妙な夢を見たときに、意味はなく誰かに話して聞かせたくなるような、まさにそんなゲームなのである。

NIDANA』はPC(Steam)にて2025年7月28日より配信中。本作を遊んでみた方は、ぜひ感想や考察を誰かと語り合ってみてほしい。
なお、画面が白と黒のみで構成されている都合上、激しい明滅を感じる場面がいくつかある。ストアページにもてんかん発作への注意喚起があるので、その点は十分に気を付けていただきたい。

基本情報 NIDANA
開発 lvl374
販売 PLAYISM
配信日 2025年7月28日
言語 日本語
価格 1,200円(Steam

この記事で紹介されているゲーム

NIDANA

アドベンチャー

日本語対応