2025年9月25日~28日に、千葉県・幕張メッセにて開催の「東京ゲームショウ2025(以下、TGS2025)」の出展タイトルから、筆者が注目する魅力的なタイトルをピックアップして紹介しよう。
なお、基本的には今後リリース予定の開発中のタイトルや、ローンチから間もないタイトル、早期アクセス中のタイトルを対象としている。


冬のムーミン谷で始まる新しい冒険
世界中で愛されるトーベ・ヤンソンのムーミンの物語に、またひとつ新しい冒険が加わる。『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』を手掛けた、ノルウェー・オスロを拠点とするインディーゲーム開発スタジオ"Hyper Games"が贈る最新作『Moomintroll: Winter's Warmth(仮)』は、冬のムーミン谷を舞台に心あたたまる時間を楽しめるアドベンチャーゲームだ。
物語は、春にはまだ遠い季節に冬眠から目覚めてしまったムーミントロールの姿から始まる。「氷姫」の白いヴェールに包まれたムーミン谷は、見慣れたはずなのにどこか遠い場所のようだ。
ひとりぼっちのムーミントロールは、冬を追い払い、誰かと一緒にいたいと願いながら未知の世界へ歩き出す。旅の途中で新しい友だちと出会い、困っている誰かを助けることで、友情とぬくもりの大切さを学んでいく。



静かな冬を探索するアドベンチャーゲーム
ゲームは三人称視点の見下ろし型アドベンチャーで、雪に覆われた幻想的なムーミン谷をのんびり探索しながら物語をたどることができる。舞台は原作小説『ムーミン谷の冬』に着想を得ており、静かな冬の世界にさまざまな仕掛けが散りばめられている。
今回会場ブースで試遊した内容は、作中のシーンを切り取ったもののようで、雪深い森の中でムーミントロールがフィリフヨンカの子どもたちに頼まれ、森の中で倒れている犬の「めそめそ」(自分はオオカミの兄弟だと思っている)を保護するように頼まれるところからスタートした。

冷たく凍えるような風が吹く谷間を、めそめそを抱えて安全な場所まで移動していくのだが、倒木を斧でばらばらにし、降り積もった雪をシャベルで掘り進み、雪のかぶった茂みをダッシュで突破する――というように、前作よりもアクション性が高まった印象を受けた。
体験版に登場したキャラクターは、ムーミントロール、フィリフヨンカの子どもたち、めそめそという限られた面々だったが、前作に引き続き、忠実に再現されたビジュアルや高品質な日本語翻訳も相まって、今から製品版が楽しみになるような完成度となっていた。

原作小説『ムーミン谷の冬』へのオマージュ
原作小説『ムーミン谷の冬』では、冬眠中のムーミントロールが月明かりに照らされて目を覚まし、再び眠れなくなってしまうところから物語が始まる。凍りついたドアや窓から外に出られず、屋根裏から転げ落ちて初めて雪の世界に飛び出す場面や、赤いランプを灯すトゥーティッキとの出会い、そして、氷姫のために作られた"雪のうま"といった幻想的なエピソードは、冬のムーミン谷の厳しさと美しさを際立たせる。
この物語は、冬を単なる脅威ではなく、向き合うべき現実として描き、ムーミントロールが孤独や恐れを乗り越えて成長していく過程を描いている。キーパーソンともいえるトゥーティッキの言葉「どんなことでも、自分で見つけださなきゃいけないものよ。そうして自分ひとりで、それを乗りこえるんだわ。」に象徴されるように、トーベ・ヤンソンは未知や不安を避けるのではなく、自分自身で受け止めて進んでいく勇気の大切さを描き出しているのだ。

製品版ではトゥーティッキやリトルミイといったキャラクターも登場し、ムーミンファンにはおなじみの面々とともに、冬をめぐる物語を体験できる。『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』の直接的な続編ではないが、どちらから遊んでも楽しめる独立した作品であり、ムーミン谷の仲間たちと過ごすやさしいひとときが、寒い冬をあたたかくしてくれるだろう。
『Moomintroll: Winter's Warmth(仮)』は、PC(Steam)・コンソールにて2026年のリリースに向けて鋭意開発中だ。
開発チームインタビュー:幸福だけではない、静けさや孤独を感じる季節を舞台に『Moomintroll: Winter's Warmth(仮)』が描く冬のムーミン谷
今回会場ブースでは、Hyper GamesのCEO・Co-founder(最高経営責任者・共同創業者)のAre Sundnes氏にインタビューする機会を得られた。
なお、本作の日本語ローカライズをサポートする架け橋ゲームズのローカライズマネージャーであり、翻訳を担当している桑原頼子氏にも通訳として同席していただいている。

――『ムーミン谷の冬』をモチーフに選んだ理由は何ですか? 他の原作エピソードではなく、この物語を選んだ背景を教えてください。
Are氏:
いくつか理由があります。まずひとつ目は、前作『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』がとてもあたたかくて、幸福感にあふれた雰囲気のゲームだったということです。今回はその対極にある、フィンランドの冬の厳しさをしっかりと伝えられるような作品にしたかったんです。ハッピーだけではない、少し挑戦的な作品にしたいと思いました。
そして、もうひとつは『ムーミン谷の冬』という小説がトーベ・ヤンソンにとって非常に大切な物語だからです。この作品から、彼女自身も人生のもの悲しさやメランコリックな部分、幸せばかりではない現実を深く描き始めています。そうしたトーベ・ヤンソンらしい視点が込められた作品だからこそ、私たちも今回のゲームのモチーフに選びました。
――原作をどの程度忠実に再現していますか? ゲームオリジナルの要素も含まれているのでしょうか?
Are氏:
前作も『春のしらべ』という原作小説(『ムーミン谷の仲間たち』に収録されている短編作品)をベースにしつつ、『ムーミン谷の夏まつり』など他の小説のエピソードを取り入れてひとつの作品に仕上げましたが、今回も同じアプローチで、『ムーミン谷の冬』を中心にしながら別の物語も少し加えて、独自の体験を作り上げています。

――原作では孤独や不安を通じてムーミントロールが成長していきます。ゲームではその「孤独感」や「成長の実感」をどのようにプレイヤーに体験してほしいと考えましたか?
Are氏:
まさにそこが今回の物語の重要な部分です。ゲームの始まりでは、ムーミンパパもムーミンママもまだ眠っていて、ムーミントロールはひとりぼっち。とても心細く、少し怖さも感じる状況からスタートします。
でも、原作と同じように、外の世界へ出て冒険が始まり、さまざまな出会いや助け合いを通じて少しずつ成長していく。プレイヤーにもその感覚を追体験してもらえるように、ストーリーの流れを丁寧に作っています。
――冬のムーミン谷の寒さ・静けさ・幻想的な雰囲気を、どのようにビジュアルや音、ゲームデザインで再現しましたか? また、雪や暗さといった冬特有の要素をパズルや探索に取り入れる際に、苦労した点や意識した点を教えてください。
Are氏:
特に苦労したのは、雪の質感を表現することでした。ただ雪の上を歩くだけではなく、雪玉を作ったり、転がして雪だるまを作ったりと、プレイヤーが雪と触れ合える感覚をしっかり表現する必要があったんです。雪の音や足跡の感触なども丁寧に作り込みました。
私たちは北欧で暮らしているので、冬はとても長くて日常の一部です。その感覚をどこまでゲームに反映できるかに注力しました。冬の静けさや空気感がプレイヤーに伝わるよう、音響やライティングにもこだわっています。
また、前作『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』が春を舞台にしていたこともあり、今回の冬の物語へ自然につながるよう、季節の移ろいを感じられるDLC『恋に落ちたクロットユール』も制作しました。もちろん、どちらのゲームから始めても楽しめるようにデザインしています。

――トゥーティッキは原作でも重要な存在ですが、ゲームではどのように描かれますか?
Are氏:
製品版ではもちろん登場し、ムーミントロールにとって非常に重要な存在として描かれます。彼女は原作と同じように物語のガイド役となり、プレイヤーにとっても物語を導く存在になる予定です。
トゥーティッキは、トーベ・ヤンソンのパートナーであるトゥーリッキ・ピエティラがモデルだと言われています。トーベはムーミンの商業的成功の中で迷いや葛藤を抱えており、どう進むべきか分からなくなってしまった時期がありました。そんなときにトゥーリッキがそばにいて、気持ちを支え、立ち直る助けとなったと言われています。本作でもムーミントロールにとって、そんな支えとなるような存在として描くことを意識しています。
――前作は音が重要な要素のひとつでした。今作では冬の静けさや孤独、そしてあたたかさを音楽や環境音でどのように表現しましたか?
Are氏:
前作では、ポストロックバンドのシガー・ロスとコラボレーションしましたが、今回はまた別の才能あふれるコンポーザーと制作を進めています。体験版ではまだあまり多くの音楽が入っていませんが、製品版ではしっかりと音楽を体験できるようになります。
ただ、今回は音楽を"たくさん鳴らす"のではなく、あえて音数を減らし、冬の静けさや孤独感を際立たせる方向を意識しています。環境音や間の取り方を大切にして、音楽が流れる瞬間がより一層印象的になるようにデザインしています。音楽そのものも、孤独や心の変化をプレイヤーに感じ取ってもらえるように作っています。
――シリーズ化したいと考えていますか?
Are氏:
現時点ではシリーズ化を具体的に計画しているわけではありませんが、可能性がまったくないわけではありません。将来的には、また新しい物語を作る機会が訪れるかもしれませんし、そうなったら嬉しいですね。今はまず、この作品をしっかり完成させて皆さんに届けることに集中しています。

――この作品を通じて、プレイヤーにどんな気持ちや気づきを持ち帰ってほしいですか? ファンやプレイヤーに向けてのメッセージをお願いします。
Are氏:
まず最初に、孤独をしっかり感じてほしいと思っています。その孤独を通して、冬の厳しさを最初に体験してほしいんです。でも、冬はただ厳しいだけではなく、人と触れ合うことで温かさを感じられる季節でもあります。冬だからこそ分かるぬくもりを、このゲームを通して伝えたいと思っています。
もうひとつは、冬という季節が自然にとって非常に大事な存在であるということを忘れないでほしいということです。原作でもムーミントロールが「冬なんかどこかへ行ってしまえばいいのに」と言うシーンがありますが、冬は夏と同じくらい大切な季節なのだと感じてほしいのです。自然にとって冬はあたりまえに訪れるもので、その意味をプレイヤーに受け取ってもらえたら嬉しいです。
基本情報 | Moomintroll: Winter’s Warmth(仮) |
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開発 | Hyper Games |
販売 | Hyper Games |
配信日 | 未定 |
言語 | 日本語有り |
価格 | 未定(Steam) |
© MOOMINTROLL: WINTER'S WARMTH™ Developed by Hyper Games
© Moomin Characters™
ライター:朝比奈
編集:LayerQ