2025年9月25日~28日に、千葉県・幕張メッセにて開催された「東京ゲームショウ2025(以下、TGS2025)」の出展タイトルから、筆者が注目する魅力的なタイトルをピックアップして紹介しよう。
なお、基本的には今後リリース予定の開発中のタイトルや、ローンチから間もないタイトル、早期アクセス中のタイトルを対象としている。


ワガママでシニカルな少女との奇妙な共同生活
イベントホール内の一角に並んでいたのはゆったりとくつろげるソファに、ゲームPVを流す高画質モニター……ではなくブラウン管テレビ。蒼い光に照らし出された『Rain98』のブースは、いい意味でTGS2025らしくなかった。
『Rain98』は1998年の東京を舞台に、謎の少女と世界の滅亡を目指しながら共同生活していくサイコサスペンス&ロマンスアドベンチャーゲーム。インディーゲームレーベルC#4R4CT3Rによって開発が手がけられている。
本作は現代からタイムスリップしてしまった主人公の視点で、謎の少女「雨原玲奈」(CV:土屋李央さん)との共同生活を、選択肢を選びながら読み進めていくビジュアルノベル型の作品だ。ときにミニゲームで生活費を稼いだり、東京の町中を探索したりしながら、玲奈のお願いである世界滅亡の手伝いをしていくことになる。
今回遊ぶことができたデモ版では物語の冒頭をプレイすることができたので、その内容についてご紹介しよう。
なお、本作には死を想起させるようなシーンがあるのでご注意いただきたい。


どういうわけか現代からタイムスリップしてしまった主人公。目覚めるとそこは、「玲奈」と名乗る少女の一室だった。ここは1998年の東京であること、そして自分は世界を滅ぼすために現れた「アンゴルモア」であることなど、次々と突拍子もないことを玲奈は話す。
世界を滅ぼすには、玲奈と一緒に日常を過ごしながら「エンジェルパスポート」にシールを1枚ずつ貼っていき、100枚貼る必要があるという。玲奈の部屋に突然現れた責任として、儀式の手伝いを頼まれた主人公は、他に行く当てもないこと、元いた時代には絶望しきっていたこともあって彼女に協力することを約束。そうして、プレイヤーは玲奈との奇妙な共同生活を過ごしていくことになる。
玲奈はかなりワガママな性格をしており、対応も基本的に辛辣。こちらを蔑むような目線が常に突き刺さり、行く当てのない主人公にはバスルームで寝てろという始末で、こちらへの思いやりなど一切ない。
だが、そんなシニカルな態度をとる彼女が、タイムスリップしてきたという突拍子もない話を信じたうえで、「私といっしょに未来を滅ぼしましょう」と誘ってくれる。手厳しい一面を見せてから、こちらを相棒として信用してくれるというギャップは非常に刺さり、こんなの罠だとしても乗るしかないっ……!

また、玲奈の年相応な部分も垣間見ることができ、部屋に置かれた謎の喋るマスコットを妙に気に入っており「かわいい……」とひとりごつ場面がある。どういうギャップで人が落ちるのか良く計算されているな、とさえ思ってしまったくらいには筆者に刺さった。
CVを務める土屋李央さんが吹き込んだボイスも作品に抜群の色どりを与えており、この「玲奈」という複雑怪奇な内情を抱えた少女にベストキャスティングだったのではないか、と思わせる凄みが試遊版時点で存在していた。主人公のほうはテキストのみだが、その分プレイヤーと玲奈2人だけの世界であるという没入感の高さへと繋がっているように感じられた。

そして、世界観も本作の魅力の1つだろう。1998年、そして玲奈が名乗った「アンゴルモア」という名前にピンと来る方もいるかもしれないが、この時代は「ノストラダムスの大予言」によって世界滅亡が予言されていたことも話題となっていた。
1990年代はバブル崩壊後の就職氷河期とも重なり、閉塞感に満ち溢れていた時代ということもあって、「世界滅亡」の意味合いは我々が生きる今の時代とは少し違ってくるということが伝わってきた。そして、現代を生きる主人公も、未来でも争いは絶えず、広がり続ける格差など1990年代とはまた異なる閉塞感を抱えていた描写が存在する。異なる時代の若者2人が「そんな世界は滅ぼしてしまおう」と共鳴し合ったのも必然に思える。
その一方で、世界を滅ぼそうと破滅的な生き方になるかといえばそうでもなく、世界を滅ぼす方法は前述のように、玲奈のお願い事を聞きエネルギーを溜めていくというもの。お願いも「部屋の掃除をしてほしい」という素朴なもので、一見すると2人で平和に共同生活を送っているようにしか見えない。そんなアンバランスさもどこか人間臭くて愛おしいような気さえした。

青みがかった蒼く静謐なアートワークと、Lo-FiなBGMが物語を彩り、プレイ中は雑念を捨ててシナリオへと没頭させてくれる。ブース内のリラックスできる雰囲気とソファの快適さもあり、ここがイベントホールであることを忘れてしまうくらいだった。
一方で、ゲーム内には恐怖を煽るような不穏な描写もあり、どのように2人の物語が展開されていくのか全く予想できないものとなっていた。今後の展開に胸を躍らせながら続報を待ちたい。
また、試遊版ではノベルパートのほか、生活費を稼ぐためのミニゲームも遊ぶことができた。筆者は今回「カプセル詰め」をプレイしたのだが、こちらはひたすらカプセルへの商品入れを行っていくという内職がゲーム化されている。内職以外にもマップ探索や、玲奈の代わりに「デジタルペット育成ゲーム」でペットのお世話をするミニゲームなど、さまざまな遊びが製品版では実装されるようだ。

"刺さる人へ確実に刺す"尖った作品を目指して
本作のディレクターを務めるショーン・T氏にお話を伺うことができたので、最後にそちらもご紹介しよう。
『Rain98』の開発は10~15人程度の小規模チームで進められている。最初は4人から始まったものが、それぞれの縁や偶然によって開発メンバーが増えていったとのこと。
企画の発端は、ショーン・T氏がある日みたアイドルのライブからインスピレーションを受けたことだったそう。そこから90年代の東京で制服姿の美少女と一緒に日常を過ごす、という本作のイメージが形作られたようだ。

玲奈の声優としてキャスティングされている土屋李央さんは、多くのメジャータイトルでもダウナーな役柄を演じることに定評がある。そのため、最初はこの辺りを踏まえてのキャスティングなのかと思ったのだが、意外にも開発メンバー同様に偶然の繋がりによるものだったそうだ。
ただ、土屋さんのボイスを聞いてからは、もう玲奈役はこの人しかいないと思ったそうで、ご本人の持ち味でもある感情の機微を絶妙に表現しきったボイスの幅にも注目してもらいたいとのことだった。哲学的なセリフに含まれる、玲奈のわずかな感情の揺れ動きなどは試遊版時点でも感じることができ、そのクオリティの高さがうかがえる。
玲奈のキャラ造形や世界滅亡を目指すといったゲーム目標はかなり尖ったものだが、これは"刺さる人へ確実に刺す"ことを目指しての意図的なものとのこと。彼女との一対一のコミュニケーションを主軸に、玲奈のキャラが刺さる人へ好きになってもらうことこそが目標と語ってもらえた。試遊版時点でも玲奈のキャラはかなり惹かれるものとなっており、最後まで遊んだ暁にはどうなるのかと思えてしまう。

今後の展望については、まず16言語に対応して世界中の方々に遊んでもらいたいとのこと。ボイスは日本語である土屋さんのもののみとなる予定だが、土屋さんのボイスが玲奈のキャラ造形には最も合っているからという判断もあり、日本語がわからない海外の方でも、声の雰囲気を味わいながら字幕映画のように楽しんでもらいたいと語っていただいた。
そして、シナリオについては緩急を激しくつけることが予告されており、玲奈の正体についても彼女の言うとおり「アンゴルモア」……とそう単純なものではないそう。ゲーム内の会話パートでは選択肢などが出る場面も多々あり、プレイヤーの選択によって物語のエンディングが複数に分岐する可能性もある予定とのことだ。

また、ゲーム内の一部で見られたホラー要素については、雰囲気に惹かれているのにホラーが苦手でやめてしまうのは惜しいということで、ホラー要素の強弱をモードで設定できるようにすることも検討したいそうだ。
膨大ともいえるローカライズ数やホラー要素の調整など、多くの方に手に取っていただけるような配慮はしつつも、作品の根幹は変えず"刺さる人へ確実に刺す"ことを掲げた本作。キーアートの玲奈の目力に惹かれたらぜひ手に取ってほしいと語っていただけたが、試遊版時点でもその気合いはひしひしと伝わってきた。
『Rain98』は、PC(Steam)で2025年内のリリースを目指して鋭意開発中。玲奈との2人だけの儀式が進んでいく先はどこなのか、期待が高まる。
基本情報 | Rain98 |
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開発 | C#4R4CT3R |
販売 | C#4R4CT3R |
配信日 | 2025年 |
言語 | 日本語有り |
価格 | 未定(Steam) |
ライター:レイリー
編集:LayerQ