本稿は事前にレビューキーをご提供いただき、執筆しています。
『The Berlin Apartment』は、ベルリンの古いアパートを舞台に、父と娘の親子が紡ぐナラティブ・アドベンチャーゲームだ。ドイツのケルンとベルリンに拠点を置くゲーム開発スタジオ"Blue Backpack"が手掛ける。
舞台は2020年のベルリン。歴史あるアパートの改装作業を請け負った父マリクに連れられた娘のディラーラが、退屈しのぎに古い壁紙を剥がしていたところ、その裏に残されていた一通の古い手紙を見つける。そこから、このアパートにかつて暮らした人々の記憶が静かに姿を現し始める。
本稿では、この部屋で生きた人々の日々を、短編小説をめくるようにオムニバス形式で追体験していく本作の魅力を紹介しよう。


部屋に触れ、時代に触れ、その人の日々に触れる
本作では、アパートの一室を舞台に、時代の異なるエピソードがそれぞれの登場人物の視点で描かれる。一人称視点で居室内を自由に行動し、家具や日用品といったオブジェクトに触れながら、その時代に住んでいた人物自身として、部屋の様子や日々の営みを確かめていく形だ。
キーとなるオブジェクトを調べたり、アクションを行ったりすることでストーリーが進行していくが、それらとは無関係なものであっても、細やかにリアクションが返ってくる。できるだけ多くの物に触れていくほど、部屋に流れる空気や、その人物の性格・背景が自然と立ち上がってくる仕組みだ。

同じアパートの一室であっても、時代が変われば見える光景はまったく異なる。置かれている家具や装飾、内装の意匠だけでなく、窓の外に広がる景色や、そこから伝わる時代ごとの世相すら変化する。短いエピソードの中でも、その時代特有の空気が少しずつ染み込んでくるはずだ。
なお、ゲーム内の登場人物たちの言葉はフルボイスで収録されており、英語とドイツ語から選択できる。舞台背景を踏まえると、ぜひドイツ語音声で体験することをおすすめしておきたい。

紙飛行機が運ぶ、見知らぬ誰かとの小さなつながり
物語の最初に語られるのは、1989年のベルリンだ。東西の壁がまだ街を断ち切っていた時代で、植物学者の青年コーリャが主人公となる。
日々を鬱屈とした気分で過ごしていた彼の部屋に、ある日、西側にある向かいのアパートの部屋から紙飛行機に乗せられた一通の手紙が舞い込んでくる。遠目に覗いたものか「蘭の花がしおれきているわよ。ついでにあなたもしおれてみえる!」という少しお節介な一言とともに、そこにはルーという女性の電話番号が記されていた。

コーリャは電話を掛けようとするが、交換手から返されるのは「回線が混雑している」という無機質な応答ばかりだ。そこで彼は、自分も紙飛行機に返事を書いて投げ返すという小さな冒険に踏み出す。投げた紙飛行機は彼女のもとへ届き、ほどなくして返事が返ってくる。壁を隔てて交わされる紙飛行機のメッセージが、顔も知らない2人の一日をそっとつなぎ始める。
部屋に置かれた家具や小物に触れていくと、コーリャの生活が少しずつ浮かび上がる。彼女の人となりを想像しながら手紙をしたため、紙飛行機に折っていくその仕草が、彼という人物に静かに輪郭を与えていくのだ。紙飛行機が床にそっと落ちるときのかすかな音でさえ、この一日の物語を静かに彩ってくれるかのようだ。

1989年のエピソードを終えると、舞台は2020年のディラーラの視点へと戻り、彼女が再び新たな"歴史の記憶を留めた物"を見つけ出すことで、次に語られるべき時代のエピソードへと繋がっていく。こうしてこのアパートに刻まれたさまざまな時代の記憶が、ひとつずつ立ち上がっていく構成になっている。
続く1945年のエピソードでは、戦後間もない寒さの中でクリスマスを迎えようとする家族の一日が静かに描かれ、1933年のエピソードでは、映画に人生を捧げてきたユダヤ人の老人が時代の波の中である決断を下す姿がそっと語られる。
いずれのエピソードもその時代のひと時を切り取ったものであり、良き時代も苦しい時代も等しく描き出す、短編小説を一編ずつ読み継いでいくような静かな余韻が残る体験だった。そして、物語はこれらだけに留まらず、このアパートで積み重ねられてきたさらなる時代の記憶へと静かにページをめくっていくのだ。


静かに積み重なった時間にそっと手を伸ばして
本作は、大きな選択肢や驚くような劇的な展開が待ち受ける物語ではないが、かつてその部屋で暮らした誰かの息づかいを映し出していく短いエピソードの積み重ねが、思いがけず深い余韻を残してくれる。あるアパートの一室が一世紀に渡ってたどってきた歴史を、あなた自身の目で確かめてみてはいかがだろうか。
『The Berlin Apartment』は、PC(Steam)・コンソール(PlayStation 5, Xbox Series X/S)にて2025年11月18日より配信中だ。

本作は日本語テキストが実装されており、ナラティブなエピソードを語るうえで十分なクオリティが感じられる。一方で、一部では固有名詞の表記ゆれ(例:Josef=ジョセフ/ヨーセフ)や、使用フォントが原因と思われるオプション項目の文字化けも確認している。いずれもフィードバックによる改善が期待される点だ。
| 基本情報 | The Berlin Apartment |
|---|---|
| 開発 | Blue Backpack |
| 販売 | Blue Backpack, ByteRockers' Games, PARCO GAMES |
| 配信日 | 2025年11月18日 |
| 言語 | 日本語有り |
| 価格 | 2,800円(Steam) |
| 2,750円(PlayStation 5) | |
| 2,900円(Xbox Series X/S) |
ライター:朝比奈 編集:LayerQ
