2025年9月25日~28日に、千葉県・幕張メッセにて開催された「東京ゲームショウ2025(以下、TGS2025)」の出展タイトルから、筆者が注目する魅力的なタイトルをピックアップして紹介しよう。
なお、基本的には今後リリース予定の開発中のタイトルや、ローンチから間もないタイトル、早期アクセス中のタイトルを対象としている。


乗客が抱えるウラの本音を解き明かす
筆者は普段の移動ではあまり使わないが、その分タクシーに乗るとちょっとした非日常感を味わえる気がする。そんな移動手段に"タイムトラベル"という要素が加わったらとしたら、いったいどこへ行こうかとワクワクせずにはいられない。──もっとも、乗る前にやましいことがあったなら話は別だろうが。
『TIMEMOON』は、月面都市のタクシー運転手として、タイムトラベルできるタクシーの車内を舞台に大統領暗殺の謎を解き明かしていくSFアドベンチャーゲーム。ビジュアルノベル型のアドベンチャーゲーム『世界滅亡共有幻想マミヤ』を手掛けたインディーゲーム開発チーム「けんこうランド」によって開発が手がけられている。

プレイヤーはムーン交通のタクシー運転手となり、タイムトラベルを希望する一癖ある乗客たちと対話していくことになる。ここでの乗客は全員大統領暗殺の容疑がかけられており、表向きの態度とは別に、話したくないウラの本音を抱えている。乗客の真意を選択肢式の会話で探りつつ、彼らを過去か未来のどちらへ送り届けるかを選択しよう。
今回の体験版では、何やら怪しげな雰囲気を持つ社長"ラ・ウィルソン"を乗車させての一幕を試遊、もとい試運転することができたので、その内容についてご紹介しよう。

主人公の運転手が浮かない顔をする場面から、本作の物語は始まる。主人公の名前は自由に変えられるが、ここでは一旦試遊版でのデフォルトネームであった"クラーク"と呼ぼう。舞台となる月面都市の住人には"市民ランク"が割り当てられており、クラークはとある事情からその市民ランクを上げる必要に迫られているという。この設定からは、本作の舞台がディストピア的であることを匂わせる。
そして、ランクを上げる方法には、重要事件の犯人を暴くことが含まれる。そうして、彼は月面都市を騒がせる重大事件"大統領暗殺事件"容疑者の一人を、タクシーへ乗せようとしている。あわよくば、事件解決の糸口を探り市民ランクを上げるために。

本編に入り、乗客を迎えに行く前に、その日のニュースや新聞を読むことができる休憩パートが挟まる。単なる世界観補強の読み物……というわけではなく、本作ではここで得られる情報がこの後のパートでカギを握る。
迎えに行く乗客やニュースの情報が、この後の論戦で大きなヒントとなるからだ。円滑なコミュニケーションにも下準備が大事とは言うが、まさにこのことだろう。

情報を得たら、いよいよ乗客を乗せての腹の探り合いが始まる。会話の中でさまざまな情報を集めつつ、乗客が本当に行きたいのは"過去"なのか"未来"なのかを見極める必要がある。
とはいえ、普通のタクシーと変わらず、乗車時に過去か未来かどちらに行きたいかを乗客は教えてくれる。だが、それが彼らの真意、もしくはベストな選択肢とは限らないのが本作の難しいところだ。
たとえば、今回の体験版で乗車してくるラ・ウィルソンは、未来に行きたいと言ってくる。顧客の未来を事前に把握しておいて、会社の保険事業でさらなる利益を上げたいという理由のようだ。「タイム・イズ・マネー」という決め台詞通り金の亡者かのような振る舞いだが、一方でどうもそれだけではない雰囲気もまとわせている。

そして、事前に確認したニュースを思い返すと、彼の会社と、ある事件の間に何か関連性が見えてくる。それを踏まえたうえで、本当に彼の言う通り未来へ送り届けることが正解なのか……ということを推理していく必要があるというわけだ。
乗客との会話は随所で選択肢が発生するので、話題を広げたい選択肢の方向へハンドルを切って会話を進めていくことになる。
最初は単なる雑談程度の会話から始まるが、核心に迫っていくにつれ、会話もヒートアップ。画面下部に表示されるタクシーの速度も上がっていき、緊迫した車内が効果的に演出される。選択肢に時間制限があることも緊張感に拍車をかけており、手に汗握る推理と論戦を楽しむことができた。

論戦パートが終わると、乗客を過去か未来のどちらへ送り届けるかの最終選択が待ち受ける。恐らくここまでプレイしてきたなら、どちらへ向かうべきか自ずと決まっているだろう。自分の信じたほうへとハンドルを切ると、エピローグの後に勤務態度などを勘案して最終評価が下される。
最終評価は、選択肢の正解数や、制限時間内に回答できたかなどによって変動する。本作はマルチエンディングとなっており、ここでの評価がエンディングの分岐先に関わるのかもしれない。

時間改変後はニュースにさまざまな変化が起きており、以前の物と読み比べてみるのも面白い。自分の選択によって、現代がどう描き変わったのか、本当に正しい選択だったのかなどを考える余韻がプレイ後には残っていた。
プレイ環境の問題で本作のBGMが聴けなかったことは心残りとなったが、こちらもかなり力を入れて制作しているとのことなので、製品版で聴ける日を楽しみにしたい。
約10分という短いプレイ時間ながら、バシバシと決まる会話のテンポ感や、論戦を熱くさせる演出の数々など、映画1本見終わったかのような充足感を得られる体験版となっていた。
UI面や小道具から逆算して開発
本作のディレクター、アートデザイナーを務めるココロ・テン氏にお話を伺うことができたので、最後にそちらもご紹介しよう。
開発が始まったきっかけは、インディーゲーム展示会「東京ゲームダンジョン」で過去に催されたノベルゲーム特集企画。この企画のキービジュアルをココロ・テン氏が担当しており、当初は過去作での出展を考えていたとのこと。だが、せっかくならキービジュアルを描くだけでなく、新作も同時に公開したいと決意して、本作の開発が始まったそうだ。

本作は洋画がアイデアの源流となっていたそう。『ダークナイト』や『オッペンハイマー』といったメガヒット作を連発する巨匠クリストファー・ノーラン氏の作品をはじめ、王道SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、傑作サスペンスとして知られる『タクシードライバー』などからインスピレーションを受けて、本作のアイデアが固まっていったとのこと。
タクシー車内というある種の「密室」を土台としたサスペンスに、タイムトラベルというSF要素をかけ合わせる。本作の会話劇の緊張感と、互いに腹を探り合う重たい空気感は、前述の作品群の名前を聞けば納得できるところだ。

また、本作をプレイした印象として「画面UIがスタイリッシュかつ洗練されている」と筆者は感じた。実際、本作はUI面から逆算する形で制作したそう。
フローの一例をご紹介すると、タクシー車内を舞台にするので、画面の左サイドにはドライバー視点を配置するのは確定。そのうえで、右下にスペースが余るので、ここに車ならではの要素が入るはず……と、逆算する形で速度計と会話がリンクする演出が生まれたとのことだ。UIとゲームシステムが非常にかみ合っているという点は、制作方法から考えれば必然なのかもしれない。

そして、以前の開発作『世界滅亡共有幻想マミヤ』と制作方法が打って変わった点は、やはりグラフィック。青を基調とした美しいドット絵で彩られた本作だが、このドット絵を採用したのはゲームの作りやすさを考えてのことだったそうだ。アニメーションの作りやすさや、低解像度のグラフィックだからこそ細やかな点をプレイヤーの想像に委ねやすい点などがゲーム制作と相性が良く、今作ではドット絵でのグラフィック作成になったそうだ。
会話劇中のキャラクターの表情が生き生きと感じたのは、このアニメーションの作りやすさと、想像力で補いやすいという二点がしっかりとかみ合ってのことだろう。
『TIMEMOON』は、PC(Steam)での発売を目指して鋭意開発中。今後はイベントでの出展は行わず細部のクオリティアップに注力するとのこと。月に照らし出される真実がどのようなものになるのか、期待が広がる。
| 基本情報 | TIMEMOON |
|---|---|
| 開発 | Kenkou Land |
| 販売 | Kenkou Land |
| 配信日 | 未定 |
| 言語 | 日本語有り |
| 価格 | 未定(Steam) |
ライター:レイリー 編集:LayerQ

