「本当の自分とは?」記憶喪失の青年を揺さぶるサイケデリックホラーADV『DEPERSON』ブースレポート【TAMAインディーゲーム展覧会 Dissonance #1 不穏】

ばんじーよこすか

2026年7月7日

2026年6月20日〜21日に、東京都・パルテノン多摩 市民ギャラリーにて「TAMAインディーゲーム展覧会 Dissonance #1 不穏」が開催された。本イベントは、不穏をテーマにしたインディーゲームを集めた展覧会だ。

会場には全15タイトルがプレイアブル展示され、ホラーやサスペンスといったわかりやすい恐怖だけでなく、日常の中に潜む違和感、説明しきれない不安、どこか落ち着かない空気などをまとった作品が並んでいた。

弊誌では以前、本イベントの主催者インタビューを掲載した。イベントの開催経緯や不穏というテーマに込められた意図については、そちらの記事もあわせてチェックしてほしい。

本稿では、出展タイトルの中から筆者が注目した『DEPERSON』をご紹介しよう。

※本稿では、自殺を想起させる描写、暴力描写、精神的に重いテーマを含むゲーム内容に触れています。

Dissonance | TAMA インディーゲーム展覧会
東京都多摩市のニュータウンで開催される、不穏なインディゲームに特化した展覧会。照明を抑えた静かな空間で、アート志向のゲーム作品をじっくり鑑賞・試遊できる体験型イベントです。
不穏なインディーゲームを集めた展覧会が多摩で開催。主催者に聞く「天然の不穏」と「テレパシーとしてのゲーム」とは?【TAMAインディーゲーム展覧会 Dissonance】
2026年6月20日~21日の2日間にわたり、東京・多摩センターのパルテノン多摩の市民ギャラリーでTAMAインディーゲーム展覧会 Dissonanceが開催される。今回は開催に先駆けて、主催者であるfuturalaの渡部氏、.irisのヒロ氏・ユニス氏にメールインタビューを実施。イベント誕生の経緯から「不穏」というテーマへのこだわりまで、じっくりお話を伺った。
Steam:DEPERSON
秩序は、あなたを守る。だが同時に、“あなた”を奪う。 記憶を失ったアーロンは統制国家インドリヤで目覚める。現実は歪み、選択のたびに運命が変わる――変わっているのは世界か、それとも自分か。

精神病院で目覚めた青年となり、失われた記憶をたどれ

DEPERSON』は、監視と恐怖に覆われたディストピア国家の精神病院で目覚めた青年が、断片的な記憶をたどりながら自分が何者なのかを探っていく2Dサイケデリックホラーアドベンチャーゲームだ。開発はトルコを拠点とするError Thing、販売はPARCO GAMESが手掛ける。

試遊版は、オープニングムービーで始まった。「記憶は刃のように襲いかかる……」といった言葉とともに、1人の青年が苦悩する様子が描かれたあと、その青年がベッドの上で目覚めるシーンからゲームの操作パートが始まった。

彼には記憶がほとんどなく、自分が何者で、ここが何なのかもはっきりしない。監視カメラもある病室の中で、彼は目の前にいる1人の女の子に話しかける。そのうちに、青年の名前はアーロンで、その女の子の名前がベルであることがわかった。少し話したあと、ベルは部屋の外に出て行ってしまう。

▲オープニングムービーより
▲主人公のアーロンとベル

基本的なゲームの流れを説明しよう。本作は、アーロンを左右に動かして病院内を探索する形式になっている。インタラクトできる人物やオブジェクトの前には丸印が表示され、十分に近づくと三角印へと変化する。そこでボタンを押すことで、アイテムを手に取ったり、詳細な説明を確認したり、相手に話しかけたりできる。

アーロンは謎の病により、精神病院を思わせる施設に入院中の身だ。病院内には、診察を待つ人、椅子に座ったままの看護師、立ったままの医師、そしてさまざまな病を抱えた入院患者がいる。アーロンは患者のいる部屋に入り、その人の持ち物を調べたり、会話を重ねたりすることで、それぞれの人物が抱える事情を知っていく。

そして、アーロンがその人のためにできることを考えて実行に移すと、忘却の残響を獲得できる。忘却の残響を一定数手に入れると、先に進めるようになる。

▲白い丸印を調べていこう

筆者がはじめに入った部屋には、白いタンクトップを着た中年男性がいた。部屋の中には、灰皿いっぱいにたまった大量のタバコ、アルコール瓶、そして一度4つに引きちぎったあとに丁寧に貼り合わされた写真などが並んでいた。その写真に写る1人の女性は、彼にとって大切な人物であることがうかがえる。

中年男性は「俺がしたことは全部、あいつらを守るために、道を外れないようにしてやっただけなんだ」と語るが、何をしたのかと聞いても彼は答えてくれない。部屋を丁寧に調べていると、1通の手紙を見つけた。「愛するミラへ」という言葉で始まるその手紙の差出人は、エロディという人物だった。

▲苦悩している中年男性
▲これがミラだろうか

手紙の内容からは、エロディが「彼」の厳しい監視の下、ミラと秘密の関係を育んでいたことが読み取れる。月が昇ったら待っている。永遠にあなたのもの。そんな言葉で締められた手紙は、しわくちゃにされていた。文中の「彼」が目の前にいる中年男性なのだろうか。

中年男性は、「俺さえいなくなりゃ、あいつらもようやく安らげるだろう」とも口にする。そんな彼にアーロンができることは何なのか。この時点では、筆者にもまだわからなかった。

▲ミラの秘密の恋文

その後、筆者は別の病室で1丁の銃を見つけた。そこには、無数のチューブと生命維持装置のような機械につながれた老兵がおり、「スーハー、スーハー」と機械的な呼吸音が漏れている。

その銃を手にして、先ほどの中年男性の部屋へ戻った。彼に頼まれたとおりに銃を渡すと、忘却の残響を手に入れることができた。

▲難しい選択だ

この時点で、彼がその銃で何をしようとしているのかは察しがついていた。ゲームとしては、「アーロンが彼にできること」を実行し、次へ進むための条件を満たしたことになる。だが、その条件を満たすために手渡したものが銃である以上、複雑な気持ちだった。

アーロンは部屋の外へ出た直後、部屋の中から銃声が響いた。急いで戻ると、中年男性は椅子ごと床に倒れ、床には血が広がっていた。アーロンは「僕は……正しいことを、したのかな?」と、つぶやいた。

▲アーロンが手にしているのが忘却の残響

別の病室には、全身を包帯で覆われた青年ダイゴがいた。両目さえも包帯で隠れており、どのような表情をしているのかは見えない。だが、部屋の中を調べ、彼と対話するにつれて、包帯の奥にある苦しみが少しずつ見えてくる。

壁にはかわいらしい少女のポートレートが所狭しと掛けられ、カラフルかつスタイリッシュなウィッグを着けたヘッドマネキンが並べられている。病室というより、「美しさ」への欲望がそのまま閉じ込められた部屋のようだった。

▲カラフルなライターが並んでいる

アーロンがその身体はどうしたのかと尋ねると、ダイゴは複雑な事情があることをにおわせながらも、「今は大丈夫だ」「今の僕は美しいから」と答える。しかし、アーロンの目の前にいるダイゴは、全身を包帯で覆われている。彼の言う「美しさ」が何を指しているのかがわからない。

さらに話を聞いていくと、ダイゴの身体は火傷によって現在の状態になったことがわかる。「僕は、美しいはずだ。そうでなくてはおかしい。生き残ったものは尊い」とくり返すダイゴ。そして、「僕は今でも、美しいかな?」とアーロンに問いかける。全身を包帯で覆われた彼に、アーロンはどんな言葉を返せるだろうか。

▲美醜への強いこだわりがうかがえる

筆者は、美しくは見えないと伝えることにした。すると、ダイゴは全身を小刻みに動かし、「いやだいやだ、美しくなりたかっただけなのに……」と狼狽する。ついには、「もう見ないでくれ、僕は醜い、出て行け!」と怒鳴ってしまった。美しいと嘘をつくべきだったのだろうか。

中年男性の部屋ではアーロンが何を渡すかが、ダイゴの部屋では何を言うかが問われた。相手の望む言葉を返すことが救いなのか、見たままを伝えることが誠実なのか。ここでも、選択の正しさは簡単には決められなかった。

▲美しくないと伝えられ、狼狽するダイゴ

試遊範囲では、ここで紹介した愛や美醜のほかにも、戦争、母子関係といった重いテーマが扱われていた。忘却の残響を手に入れる過程で起きる出来事は、単なる報酬獲得とは言い切れないものばかりだった。

そんな重いテーマを扱いながらも、写実的に描かれるわけではない。手で細かく描き込まれた人物や背景のおかげで、まるで絵本の世界をのぞいているようだった。

トルコの幼馴染3人が描く、選択と自己の物語

試遊後、パブリッシャーであるPARCO GAMES河村雄大氏にお話を伺った。本作を手掛けるError Thingは、トルコを拠点とするインディースタジオだ。Bilge Kağan AKTAŞ氏、Bengisu Koyukan氏、Yusuf Kemal TOK氏の幼馴染3人によって2020年に設立された。

河村氏によれば、3人はもともとゲームとは別の仕事に就いていたが、「このゲームを作りたい」という強い思いから本作の開発を始めたという。PARCO GAMESが本作のパブリッシングを検討するきっかけのひとつとなったのは、オフラインイベントで本作と出会ったことだった。

▲開発を手掛けるError Thingチーム

河村氏は、本作のアーティスティックな表現、プレイヤーの心理を揺さぶる選択肢やストーリー、そしてクリエイターたちが持つ明確なビジョンに惹かれたと語ってくれた。作品の核は作り手に委ねつつサポートをしているという。

『DEPERSON』というタイトルにも、本作のテーマが込められている。河村氏によれば、「de」と「person」に分けたときの“人間から離れる”という感覚や、精神的な不調を含む多義性が意識されているという。選択肢によっては、単にアーロンの行動が変わるだけではない。彼が何者なのか、そしてその人間性そのものが問われていく。

今回、数十分試遊しただけだが、その言葉の意味が少しわかった気がした。本作における選択は、一般的なゲームにある分岐システム以上の意味を持つ。プレイヤーは物語の続きを選んでいるだけでなく、アーロンという人物の輪郭を少しずつ形作っていく。アーロンは何者なのか。この世界は何なのか。その問いが、手描きのビジュアルや抽象的な演出と重なり合っていた。

試遊後は、本作の内容について河村氏と解釈を交わす時間もあった。なかなか重いテーマではあるが、遊んだあとに誰かと感想を話したくなる。どの選択が正しかったのか、あの人物に何をするべきだったのか。そんな問いが、遊んだ後もしばらく残るゲームだった。

▲青年アーロンの記憶の断片

記憶喪失の青年、統制国家の精神病院、そしてサイケデリックな手描きビジュアル。試遊中、まず目を引かれたのはこうした要素だ。だが、本作の肝は、「どの選択が正しいか」だけではなく、その選択をしたアーロンが何者になっていくのかという部分にありそうだ。

誰かの願いを叶えることは、本当にその人を救うことなのか。相手の望む言葉を返すことは、優しさなのか。それとも、見たままを伝えることが誠実なのか。『DEPERSON』は、患者たちの事情に踏み込ませることで、プレイヤーにその判断を委ねてくる。

DEPERSON』は、2026年第4四半期発売予定で価格は未定。現在Steamでは1時間半ほど遊べる体験版が公開中で、製品版は6~8時間のボリュームになる予定とのことだ。選択の重さを味わう探索型アドベンチャーが好きな方は、今すぐウィッシュリストに登録しておこう。


基本情報 DEPERSON
開発 Error Thing
販売 PARCO GAMES
配信日 2026年第4四半期予定
言語 日本語有り
価格 未定(Steam

ライター:ばんじーよこすか 編集:LayerQ

関連ゲーム

DEPERSON

インディー

アドベンチャー

日本語対応