『Staffer Case:超能力推理アドベンチャー』は、超能力を用いた犯罪事件を捜査するチームに参加し、同僚が調べた情報や容疑者の供述から手がかりを見つけていく推理アドベンチャーゲームだ。1960年代のロンドンが舞台だが、その人口の10%が超能力者たちという設定である。
ゲームは、Case.1からCase.5までの5話構成で、さらに2つのサイドストーリーが楽しめる。ゲームクリア後のユーザーレビューを見る限り、全体のプレイ時間は10時間以上となるようだ。
本作は2023年4月30日に韓国語のみ対応で正式発売され、約1年経って2024年4月26日(午後6時予定)のアップデートにより日本語を含む4か国語が追加される。韓国語のレビューだけ見ても1400件以上が投稿され、「圧倒的に好評」の評価を獲得している人気作だ。

グローバル版のリリースに先立ち、4月22日から行われたオープンベータテストに筆者も参加し、発見した誤字などの不具合を順次報告している。
※追記(2024年5月9日)
筆者は本作の発売後に開発スタジオからLQAを依頼され、日本向けにプレスリリース配信もサポートする形で関わった。
この記事では、ゲームの基本的な流れをご紹介したい。ネタバレを最小限に抑えるため、手がかりを照合する場面について、陳述書、事件現場の痕跡写真、記憶調査書などは最初のものだけを掲載する。
少しずつ明かされる超能力者たちの境遇
本作の超能力者たちは「ステッパー(staffer)」と呼ばれている。主人公となる新人捜査官ノートリックはステッパーとしてスカウトされたわけではなく、ニューメキシコの田舎にある探偵事務所からやって来たため、ロンドンの事情に疎い。
ノートリックが所属するのは、とある政府機関の「マナ事件専任チーム」と呼ばれる捜査課だ。そこで同僚のステッパーたちから話を聞くうちに、ステッパーがどのような存在なのかを少しずつ知っていく。例えば、ステッパーたちはオカルトじみた「超能力」という呼び方を嫌い、自身の能力を「スキル」と呼んでいる。
マナ事件専任チームが担当するのは、ステッパーが関与している事件ばかり。捜査するうちに、ロンドンのステッパーたちがどのような仕事に就いているのかも分かっていく。

捜査資料を見て手がかりを「照合」せよ
捜査を進めていくなかで、与えられた資料の中から手がかりを探す必要が出てくる。手がかりを選択するスロットは2つあり、片方のスロットが質問で埋まっている場合は、1つ資料を選んでから、気になる箇所を見つけて「手がかり照合」をすればよい。
スロットが2つ空いている場合は、資料を2つ選んで、それぞれの資料から1つずつ情報を選択し、照合してみよう。どうしてもわからない場合はヒントボタンを押せば、どの資料を照合すればよいか教えてもらえる(ただし、ヒントの示す資料だけが正解だと思っていると行き詰まることもあったので注意しよう)。
ノートリックが初出勤するプロローグで、手がかり照合の練習ができる。


最初の事件では、捜査課の3人に認めてもらえるかどうかのテストを兼ねて、サーカス団の団長が殺害された事件を調べる。
取り調べ担当の「テナ」は、心拍数の異常を検知できるスキルを持っているため、テナの作った「陳述書」には「異常心拍」の有無が記録されている。これは嘘発見器のような役割を果たし、陳述者が嘘をついているときは異常が検知されるが、嘘をついていなくても、陳述者が興奮した場合や殺人や死について口にした場合には異常が検知される。

「ブリアン」は、指紋、足跡、傷跡など、事件現場に残された痕跡をはっきりと見えるようにして「痕跡写真」を作成してくれる。ブリアンのスキルにより、それぞれの痕跡が付いた時間も特定できて記録される。

チーム長の「レッドフィンズ」は、いわゆるサイコメトリーのスキルを持ち、触れた物体から記憶を読み取ることができる。事件現場の気になる所を選択すると、レッドフィンズが読み取った記憶を説明してくれる。情報は「記憶調査書」という資料にまとめられる。

こうして、容疑者の取り調べや事件現場の調査から作った資料を突き合わせて、捜査課のメンバーと議論をすることで捜査が進んでいく。ときには容疑者から新たな供述があり、資料が増えることもある。
クライマックスでは、6つの資料を六角形に並べて6つの情報を一度に照合する「六角推理」によって、今までと大きく発想を変えた推理を披露し、真相に近づくことができる。いわゆる、どんでん返しのような展開が待っているのだ。
事件の闇と暗い社会的背景の描写が魅力!
本作は法廷ものではないが、『逆転裁判』シリーズから影響を受けていることは、容疑者の取り調べシーンなどから感じられるだろう。だが、『逆転裁判』のように犯罪事件を扱いつつもポップなコメディにしているかというと、そうではない。本作はダークで重いテーマを扱っており、刺激が強めだ。
ステッパーの持つ能力の危険性と、その能力を利用したビジネスや犯罪。あるいは、ステッパーたちが罪を犯さざるを得ないところまで追いつめられてしまう過酷な社会を描こうとしているようだ。そこが本作の魅力でもある。
ゲーム開始時に「本ゲームには一部衝撃的な内容が含まれています。小さいお子様や、心臓の弱い方、妊娠をしている方はプレイをお控えください。」という断り書きがあることにも触れておこう。例えば、ある事件では、殺害された「被害者の手」だけが現場に残されているという状況が、隠されることなく絵で描写される。またある事件の冒頭ではもっと衝撃的な遺体写真が出てきて、普段遺体を見慣れているテナでも叫ぶというシーンがある(写真の一部にはモザイクがかかっている)。残酷描写に対する感覚が日本と異なることを心に留めておいていただきたい。

ベータテストでは翻訳に少し気になる点も……
先述のとおり、本作のグローバル版のオープンベータテストが4月22日から行われ、筆者はベータテスト版の日本語翻訳を目にした。推理に支障はないようだし、ストーリーも十分に楽しめるのだが、いくつか気になる点があった。
まず、主人公のノートリックの一人称がころころ変わってしまう。同じ場面でも台詞によって、僕、俺、僕、俺…のように変わるし、場面によっては私という一人称が続く。意図的に使い分けているようには見えなかった。
もし日本語ネイティブがチェックしていれば、すぐに気づきそうな誤字も残っていた。例えば、あんたという呼称がたまに「あんんた」「あんなた」となっていたり、固有名詞のマナが「ママナ」となっているところもあったりと、タイプミスのようなエラーがやや多いと感じた。Case.1とCase.2に関しては筆者がフィードバックをしたので、誤字が修正されることを願っている。
この調子でCase.3以降も誤字が残っているかもしれないが、筆者も可能な限りフィードバックを続ける予定だ。誤字などが原因で評価が下がってしまうとしたら、あまりにも惜しい作品だからだ。
※追記(2024年5月9日)
5月6日と7日のアップデートにより、上記の一人称や誤字の問題は一通り修正された。
近年、韓国のインディーゲームシーンでは推理ゲームが流行しているが、本作のヒットがブームを牽引してきたと言ってよい。海外の推理アドベンチャーゲームに興味のある方には本作を自信を持っておすすめしたい。
しかも、スピンオフや続編も発表されている。先日弊誌でもお伝えしたように、スピンオフの短編『Staffer Reborn』が本作のグローバル版リリースと同じ4月26日に発売される(紹介記事)。本編のその後の世界を描いた正式な続編『Staffer Staff』の制作も発表されており、2025年発売予定だ(開発元のSNSアカウント)。どんな新しい世界が待っているのか、今から楽しみでしかたがない。

基本情報 | Staffer Case:超能力推理アドベンチャー |
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開発 | Team Tetrapod |
販売 | Team Tetrapod |
配信日 | 2023年4月30日 日本語有り |
定価 | 1,400円(Steam) |