「ワンターンキル」とは、カードゲームにおいて、ゲーム開始直後の自分のターン中に相手を倒しきって勝利することを指す用語である。実現しやすいほど先攻を引いたほうが勝つゲームになってしまうため、ルールやカード効果の修正などで「なるべく成立しないように」と調整される部分でもある。
それをタイトルに掲げる『One Turn Kill』は、まさに「ワンターンキルを目指して遊ぶ」デッキ構築PvE型カードゲームだ。オンラインPvP型やローグライク系の多いデジタルカードゲームのなかでは珍しいジャンルとなり、だからこそ目新しくも「こういうのが欲しかった!」という直線的な魅力を持つ本作。開発はDenDen、パブリッシングはWaku Waku Gamesが担当している。
2025年6月9日に公開されたデモ版をプレイしたので、本稿ではそのゲームシステムやストーリーについて紹介していこう。

コストをドローとする新システム
本作の特徴はなんと言っても「1ターン以内に敵を倒しきらなければ即ゲームオーバー」という緊張感ある設計。カードゲームにおいては定番とも言える「プレイヤーのHP」が存在しないのだ。戦闘は必ずプレイヤーのターンから始まるが、倒しきれずにターンエンドすると相手からの攻撃を食らい、そのままゲームオーバーとなってしまう。

カードの使用枚数に制限はないが、使用するためのコスト=山札からのドロー枚数となっている。デッキは全20枚で構成されており、ターン開始時の手札は5枚。手札のカードを使うためには、15枚という少ない山札から、コストのぶんだけカードをドローしていく必要がある。3コストのカードを使えば敵を倒しきれる場面でも、山札に2枚しか残っていない状態では使用できないなど、「倒しきれなければ負ける、けれど闇雲にカードを使っているとすぐ行動不能になってしまう」といったジレンマが立ち塞がるのだ。
ゲームオーバー後は拠点に戻されてステージの最初からやり直しとなるが、拠点ではデッキを見直したり、「かかし」相手の戦闘でデッキの使用感を確かめたりできる。コンボによるダメージ量とコストの両面を気にかけながら、自分なりのデッキを組み上げていこう。カードゲーマーの中には筆者のように、そんな時間が一番楽しいと感じる人も多いのではないだろうか。

『One Turn Kill』はローグライク系とは違い、デッキ構築においてランダム要素は一切ない。加えてドローが潤沢なぶん、デッキの回転そのものが滞ることもまずないので、狙ったコンボを高確率で再現できる。理想の立ち回りを追い求めたい人には特におすすめだ。
先々を期待させるストーリー展開
『One Turn Kill』の魅力は、ゲームを進めれば進めるほど深まっていきそうな予感がある。デモ版のストアページに「周回プレイを2周目まで試遊できる」とあるように、ひとつのステージに繰り返し挑んでいくゲーム進行になっているが、その周回を重ねるごとにカードの種類が増えるだけでなく、ストーリーにも変化があらわれるのだ。
主人公であるザスキアは任務のためとある施設へ潜入し、リタという少女と通信をおこないながら、次々に敵を倒してボスのもとへ辿り着く…というストーリー展開だが、「どういう組織に所属していて、どのような任務でここに来たのか」「リタは何者か」「敵組織やボスの目的は何なのか」といったことが、決して長々と説明はされない。あくまで彼女たちの会話から少しずつプレイヤーが窺い知る、という構図になっている。
そうしてボスを撃破すると、ザスキアはその記憶を持ったまま、なぜかゲーム開始時の拠点に戻ってきてしまう。彼女が違和感を覚えながらも再び出発すると、倒したはずの敵がすべて復活しており、施設内の様子も前回とは異なっていて――というタイムリープものだ。
少しずつ話が見えてきて、状況に不穏さを感じさせたところで体験版は終了。さまざまな疑問を残しての幕引きに、正式版への期待が高められる。
周回ごとに変化するプレイ内容
周回によって変化していくのはストーリーだけではない。新たなカードが追加され戦略が広まるばかりでなく、1周目ではプレイヤーのターン中なにもしてこなかった敵たちが、2周目からはさまざまな妨害スキルを発動してくるギミックも見られた。
こちらのデッキ回転を阻害する「過負荷」という使用不可のカードをデッキに追加してきたり、手札のランダムなカードに使用不可の制限を与えてきたり――1周目で通用したデッキが、2周目でも上手く回るとは限らない。敵の妨害内容を念頭に、あらためてデッキやプレイを見直していく必要性が生まれてくる。
ワンターンキルを成功させていくだけでは、すぐに歯応えが失われてしまうだろう。しかし、これらのギミックによってプレイ内容に変化がもたらされ、「強敵と戦う手に汗握る緊迫感」を新鮮に味わい続けることができる。PvE型だからこそ実現可能なゲームデザインであり、カードゲームの楽しいところを何度でも反芻できる画期的なアイデアだ。
PvP型カードゲームのプレイヤーたちをよく悩ませるのは、必要なカードをパックで引けずデッキを完成させられないもどかしさだろう。そういった壁がない『One Turn Kill』は、これまでカードゲームに触れたことがない人・デッキ構築と立ち回りの試行錯誤が好きでたまらないカードゲーマーの両者ともに、非常におすすめできる一作となっている。
ピクセル調のアートワークも可愛らしさとスタイリッシュさを演出しており、戦闘時のアニメーションはもちろんのこと、描き込まれたキャラクター立ち絵や背景も必見。デモ段階では構築できるデッキビルドに手狭さを感じるものの、周回ごとにカードが解禁されていく仕様上、製品版への大きな懸念点とはなり得ないように思われる。プレイヤーのアイデア次第でもあるが、「実際のプレイで通用するデッキ」にどれだけ幅を持たせてくれるか、正式リリースでは注目したいところ。
発売は2025年を予定しており、対応プラットフォームはPC(Steam), Nintendo Switchに展開されるとのことだ。デモ版は6月27日現在"非常に好評"のステータスを獲得している。気になった方はぜひ体験してみてほしい。
基本情報 | One Turn Kill |
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開発 | DenDen |
販売 | Waku Waku Games |
配信日 | 2025年 |
言語 | 日本語有り |
価格 | 未定(Steam) |