2026年9月17日〜20日に、千葉県・幕張メッセにて開催された「東京ゲームショウ2026(以下、TGS2026)」の出展タイトルから、筆者が注目する魅力的なタイトルをピックアップして紹介しよう。
なお、基本的には今後リリース予定の開発中のタイトルや、ローンチから間もないタイトル、早期アクセス中のタイトルを対象としている。

変わりゆく母に寄り添い、現実を受け止めていくストーリー主導のアドベンチャー
『Mama』は、認知症によって変わりゆく母との絆のなかで、娘が介護に向き合う姿を描いたストーリー主導のアドベンチャーゲームだ。スウェーデンを拠点とするインディーゲーム開発スタジオ「Pat-o-Logic Studio」が手がける。
大切な人に寄り添い、その人の変化を受け止めながら、ただ静かにそばにい続けること。本作の根底にはそうした真摯な眼差しが流れている。全7章からなる7日間の歩みを通して、プレイヤーは心に響く対話や何気ない日常のひとときを体験。認知症によって次第に断片化していく母の心と向き合い、変わりゆく現実を静かに受け入れていく旅路が描かれる。
今回のTGS2026では「SELECTED INDIE 80」に選出されており、会場ブースでデモ版をプレイすることができた。試遊では第1章までを体験することができたが、限られた時間のなかでも本作が持つ手触りや、テーマが投げかける感情の重みを十分に実感できた。

友人からの1通の手紙と、荒れ果てた実家で目にした母の異変
物語はある秋の日、主人公ウェンディのもとに地元の友人フレドリックから届いた1通の手紙からはじまる。手紙には、街で見かけた彼女の母親の違和感のある様子がつづられていた。すぐに訪ねたほうがいいという助言に従い、急ぎ実家へ駆けつけた彼女だったが、美しく手入れされていた家は荒れ果て、電気すら止められているありさまだった。
前年に帰省したときには、何ひとつおかしな様子などなかった。しかし、いま現在の母はこの荒れ果てた状況をまるでおかしいとは思っていないようだ。ウェンディの名前を妹と間違え、色が似ているからと紙幣をピクルスの瓶にしまい込むなど奇妙な行動を重ねていく。会話を重ねても記憶は終始あやふやで、感情の起伏も激しい。
何とか母を説き伏せ、かかりつけ医のもとで診察を受けた結果――下されたのは、認知症の疑いが強いという診断だった。本作は、こうして認知症を患った母の記憶と、娘が真正面から向き合っていく物語だ。
母の混乱を体感させるマウス操作と、カメラやマイクを使った独自の仕掛け
本作のゲームシステムは、画面内の対象をマウスカーソルで選択・決定して進めるポイント&クリックが主軸となる。例えば、探しもののためにさまざまな箇所をクリックして調べたり、鍵束を使って扉を開けたりといったオーソドックスな作りで、パズル要素も含めて物語を邪魔しない程よい難易度にまとまっている。
特に印象的だったのは、母親の視点に切り替わってマウスカーソルを操作するパートだ。このシーンでは、どれほど素早く正確にマウスを動かそうとしても、カーソルが意図したとおりには動いてくれない。指先を機敏に動かせず、記憶もあいまいな母の身体感覚を表現したもので、操作を通してプレイヤーに混乱を体感させる興味深い試みだった。
また、基本操作はマウスのみで完結する設計だが、マイクやWebカメラがPCに接続されていると、より没入感のある体験ができる仕組みが用意されている。プレイヤー自身の声で母親に呼びかけることができたり、鏡に映る姿をリアルなプレイヤーの映像に置き換えたりといった、身近なPC周辺機器を演出に巧みに組み込んだユニークな仕掛けだ。
鏡に映る自分を他人と思い込んでしまうのは、実際の認知症でも見られる症状のひとつ。本作では母のそうした認識のズレを、プレイヤー自身の姿を映し出すことで表現しており、突然画面に自分の顔が映し出された際には驚かされた。
なお、Steamで配信されているデモ版でもマイクとWebカメラの演出が有効化されており、無効化するオプションは見当たらなかったため、特に実況配信などを予定している方はカメラの映り込みに注意してほしい。
開発チームの実体験をもとに描く、インディーゲームならではの切実な意欲作
こうした切実なテーマを丁寧に描ける背景には、開発チーム自身が家族や大切な人を通して認知症に向き合ってきた経験があるという。本作は単なる資料の調査にとどまらず、彼らが実際に経験した出来事や感情から生まれた個人的で大切な作品だ。試遊した範囲でも、懐かしい思い出の温かさと、家族が変化していく切なさの双方が落とし込まれていくことを予感させる。
デモ版での試遊は、自身が認知症であることを自覚できていない母と、記憶のなかの姿との不一致に葛藤するウェンディが描かれるシーンで終了となった。ストーリーとしては重い展開で終わった形にはなったが、手描き水彩のビジュアルとメランコリックなピアノ調のBGMが、作品の雰囲気を否が応にも高めてくれる。触れにくいテーマにあえて深く踏み込んだ、実にインディーらしい意欲作だった。
『Mama』は、PC(Steam)にて2027年の配信予定だ。
| 基本情報 | Mama |
|---|---|
| 開発 | Pat-o-Logic Studio |
| 販売 | Pat-o-Logic Studio |
| 配信日 | 2027年 |
| 言語 | 日本語有り |
| 価格 | 未定(Steam) |
ライター:朝比奈 編集:レイリー